研究課題/領域番号 |
24760629
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金子 弘昌 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00625171)
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キーワード | プロセス管理 / ソフトセンサー / モデルの劣化 / 適応型モデル / サポートベクター回帰 / アンサンブル学習 / ベイズの定理 / 予測誤差 |
研究概要 |
化学プラントにおいては、測定困難なプロセス変数を推定する手法としてソフトセンサーが広く用いられている。ソフトセンサーとは、オンラインで測定可能な変数と測定困難な変数yの間で数値モデルを構築し、yの値を予測する方法である。yの実測値の代わりに予測値を用いることで、迅速かつ連続的な制御が達成される。しかしソフトセンサーはプラント状態の変化によって予測精度が劣化してしまう。 前年度にsupport vector regression (SVR) モデルの更新と時間変数により時間的にプロセスが変化する場合でも適切に予測性能を維持することが可能となった。しかし一つのSVRモデルでは限られたプロセス状態にしか対応できない。そこで様々なパラメータで構築された複数のSVRモデルを用いてアンサンブル予測を行う手法を開発した。複数のSVRモデルからyの予測値が出力され、ベイズの定理を活用して各SVRモデルの予測性能に基づいて重み付け平均したものが最終的な予測値となる。各SVRモデルは新しいデータを使用して逐次更新されるためプロセスの急激な変化に追随可能であり、各SVRモデルが得意とするプロセス状態の際にそのSVRモデルの重みが大きくなることで各プロセス状態に対応できる。 さらに複数のSVRモデルから出力されたyの予測値の標準偏差によりyの誤差を推定する。予測値がばらついている場合は最終的な予測値は信頼できないが、予測値が一箇所に固まっていれば最終的な予測値も信頼できる。このように誤差を推定することで、yの予測値だけでなく、その定量的なエラーバーも同時に出力されyの制御に応用できる。 またSVRモデルを更新してモデルの精度を高く維持するためには、更新に使用するデータベースを適切に管理しなければならない。そこで情報量を基準にしたデータベースのための指標を開発し、データベース管理の流れを確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数のsupport vector regression(SVR)モデルを更新しながら使用して予測することで、プロセスの急激な変化だけでなく、複数のプロセス状態に追随可能なソフトセンサー手法を開発した。複数のSVRモデルから得られる予測値から最終的な予測値を計算する際、単純に平均を取るだけでは対応できなかった。そこで各SVRモデルの予測性能を評価する指標を新たに開発し、その指標に基づいて予測値の重み付け平均と取ることでこの問題に対処した。入力変数と出力変数との間が非線形関係であり時間変化する数値シミュレーションデータを使用することで、開発した手法の有効性および従来手法に対する優位性が検証されている。 またSVRモデルを更新してモデルの精度を高く維持するためデータベースを適切に管理する必要が生じたが、新たにデータベース管理手法を開発することで対応した。 以上のことから、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
開発した手法を用いた様々なデータ解析を通して、提案手法の実用化および一般化に関する検討を行う。検討する項目の例として、モデルの数はいくつが妥当か、各モデルへ事前に割り振るパラメータはどのようにすべきか、最終的な予測値の決定方法として何を用いるべきか等が挙げられる。 データを使用するプラントとして、反応を伴わない系だけでなく反応を含む系も対象とする。プラントごとの特徴を踏まえて上記の項目を考察することで、新しいプラントに対する提案手法の適用法に関する知見を得る。ダイナミックシミュレータによって作成されたプラントモデルから得られたデータだけでなく実際のプラントの運転データを使用することで、多種多様なデータを用いた解析を通して各プロセスにおける予測精度向上だけでなく、汎用的な手法の開発を目指す。 今年度開発したモデルのみで対応できない場合は、モデルの劣化の種類に応じて、時間差分モデルやjust-in-timeモデルを組み合わせて使用する手法を開発する。
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