研究課題/領域番号 |
24760630
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
比江嶋 祐介 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (10415789)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | カーボンドット / 環境低負荷溶媒 / 分光計測 |
研究概要 |
本研究では、まずこれまでに報告されている、化学酸化法、熱分解法、マイクロ波分解法など、種々の液相合成法を利用してカーボンドットの合成を行い、文献とほぼ同様な試料が合成できることを確認した。引き続き、顕微分光法による生成粒子の評価法の開発のために必要な装置条件を明らかにするために、ラマン顕微鏡を用いて、上記の手法で合成した粒子の観察を行い、生成物の比較を行った。その結果、生成粒子は合成法に依存するが、生成物は一般に不均一であり発光する部分と発光しない部分が存在することが分かった。発光しない部分については、一般的な炭素材料で見られるようなDバンドおよびGバンドが観測された。しかしながら、励起レーザーによるダメージが大きいため、低光量での長時間露光や低温装置の利用など、今後さらなる工夫が必要であることが分かった。 ラマン顕微鏡による観察により、従来のバッチ式液相反応により合成した生成物は、不均一性が大きいことが分かったことから、制御性に劣る従来法の欠点を克服するために、我々はエレクトロスプレーにより生成するマイクロ液滴を反応場とするカーボンドットの新規合成法を発案した。本手法では、2つの原料溶液を正負に帯電させた2つのエレクトロスプレーによりそれぞれマイクロ液滴化する。液滴間に働くクーロン引力により液滴同士は合一し、マイクロ液滴内で原料が混合される。合一したマイクロ液滴を電気炉内に吸引し加熱することによりカーボンドットを合成した。本手法を用いて試験的に合成を行った結果、反応温度により生成粒子の発光特性を大きく変わることが明らかとなった。この成果は、化学工学会第78年会で口頭講演により発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来のバッチ式液相反応による粒子の合成については、化学酸化法、熱分解法、マイクロ波熱分解法の3つの反応装置を新たに作製し、従来法による粒子合成を可能にしている。また、分離法についても、遠心分離と透析が可能となっており、おおむね計画通りに達成されている。 ラマン顕微鏡による生成粒子の顕微分光測定から、発光部分については吸収波長や吸収波長にマッピングが可能であること、非発光部分についてはラマンスペクトルが測定可能であることが分かったことは、計画の通りに達成されている。しかしながら、マッピングやラマンスペクトルと粒子の形態や光学的性質などとの相関はまだ明らかではなく、評価法としては改善の余地が大きい。また、励起レーザー光による試料へのダメージが予想以上に大きく、ダメージを軽減するための方策を検討する必要が新たに出てきた。 環境低負荷合成法に関しては、水熱合成のための反応装置を新たに作製し、水熱反応により従来法と同等の粒子の合成が可能となっており、ほぼ計画通りに達成されている。これに加えて、今回新たに発案したエレクトロスプレーを利用したカーボンドットの新規合成法は、これまでに試験的に実施した結果から、制御性の面で従来法を大きく超える可能性が示唆されており、計画以上の進展が達成されている。 顕微分光法による評価に関しては、計画と比較して若干の遅れがあるものの、合成法に関しては、エレクトロスプレーを用いた新規合成法が、従来法と比べて制御性の面でかなり優位にあることが示唆されるなど、計画以上の達成度が実現されていると考えられる。以上の達成成果を総合すると、おおむね順調に進展していると判断するのが妥当であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの成果より、エレクトロスプレーを利用したカーボンドット合成が新規合成法として非常に有望であることが分かってきた。そこで、今年度はエレクトロスプレーにより生成したマイクロ液滴を反応場として利用する新規高効率カーボンドット合成法の開発を中心テーマとする予定である。昨年度は共同研究先の産総研で試験的に合成実験を行ったが、今年度は昨年度得られた知見を元に、カーボンドット合成用に最適化した合成装置を新たに作製する。原料、濃度、温度など従来法でも利用されてきた化学的パラメータに加えて、エレクトロスプレー生成条件である印加電圧、送液流量などの物理的パラメータを利用して反応場自体を制御することで高効率な合成法としての確立を目指す。吸収、発光および励起スペクトル測定により生成粒子の光学的性質を、透過型電子顕微鏡測定により粒子の形態や粒径分布を明らかにし、種々の反応パラメータの影響を明らかにすることで、反応条件の最適化を行う。また、産総研との共同研究により、生成するマイクロ液滴の質量分析測定を行い、エレクトロスプレーの生成条件とマイクロ液滴の粒径分布との関係を明らかにすることで、マイクロ反応場自体の制御性を向上させる。最終的には精製過程が不要で、発光波長が可変なカーボンドット精密合成法としての確立を目指す。 顕微分光法による生成粒子の評価のためには、励起レーザーによる試料ダメージの軽減が不可避であると考えられる。そこで、今年度は温度、照射時間、レーザー波長やフルーエンスなどを変えた場合の生成粒子に対する影響など基礎的な情報の蓄積を行い、レーザーダメージ軽減の方策を探る。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし。
|