本研究では、まずこれまでに報告されている、化学酸化法、熱分解法、マイクロ波分解法など、種々の液相合成法を利用してカーボンドットの合成を行い、文献とほぼ同様な試料が合成できることを確認した。引き続き、ラマン顕微鏡を用いて、上記の手法で合成した粒子の観察を行った。その結果、生成粒子はかなり不均一であり、発光しない部分については、一般的な炭素材料で見られるようなDバンドおよびGバンドが観察された。発光を抑制するために、赤外光であるYAGレーザーの基本波を用いて観察を行ったが、励起光による試料へのダメージが大きく、詳細な検討は困難であった。 従来の合成法を比較検討した結果、バルク溶液中での熱分解反応であるために、制御性に劣ることが問題であるとの結論に至った。そこで、エレクトロスプレーを用いることで、原料溶液の微小液滴を生成し、このマイクロメーターサイズの液滴内で熱分解反応を進行させることで、急速昇温・急速冷却を実現し、制御性を向上させることを着想し、反応装置を作製した。2つの原料溶液を正負に帯電させた2つのエレクトロスプレーによりそれぞれマイクロ液滴化した。液滴同士はクーロン引力により合一し、液滴内で原料溶液同士が混合した。合一したマイクロ液滴をアスピレータにより電気炉内に吸引し加熱することで、縮合および炭化反応によりカーボンドットを合成した。生成したカーボンドットはコールドバスを用いて回収した。上記の成果を踏まえ、最終年度は、エレクトロスプレーを利用した新しい合成法の反応条件の最適化、反応制御性の向上を中心に実施した。その結果、従来法でも利用可能な温度や原料濃度などの反応パラメータに加えて、エレクトロスプレーの噴霧条件を規定する種々のパラメータを制御することにより、収率の向上および発光特性の制御が実現できることを発見した。
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