研究課題/領域番号 |
24760631
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
工藤 真二 九州大学, 学内共同利用施設等, 助教 (70588889)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | セルロース / 熱分解 / イオン液体 / バイオマス |
研究概要 |
セルロースを熱分解して選択的に有用化学物質を得ることを目的に、今年度は本研究で着目するイオン液体含浸法の効果と反応メカニズムの解明を試みた。 セルロースをイオン液体と混合して熱分解するという本手法は、イオン液体がセルロース熱分解に対してある種の触媒作用を与えることで同反応を制御することを狙うものである。したがって、イオン液体の物理化学的特質が本手法の有効性の鍵をにぎる。そこで、各種カチオンとアニオンの組み合わせによる15種類におよぶイオン液体を本反応系に試した結果、スルホン酸アニオンをもつイオン液体を使ったときにのみ理想的な効果、すなわちセルロース熱分解に対する触媒作用が得られ、かつイオン液体は熱分解完了温度域(<300℃)まで熱的に安定であり熱分解残渣から溶出・回収して再利用することができた。カチオンの種類はセルロース熱分解にはほぼ影響を与えない代わりに、イオン液体の熱的安定性を左右することも判明した。効果のあったイオン液体を用いたとき、選択的に得られた生成物はいずれの場合でもレボグルコセノンであった。その他の有用化合物、例えばレボグルコサンやフラン類を選択的に得ることはできなかったが、ビストリフルイミドをアニオンにもつイオン液体ではセルロース熱分解生成物に全く影響を与えない一方でチャー収率を無視小にするというような興味深い結果も得られた。 次に、レボグルコセノンが選択的に生成するメカニズムを解明するため、熱分解昇温過程におけるセルロース構造の変化を各種分析により追跡した。その結果、グリコシド結合開裂前の低温域において、イオン液体が触媒的にセルロースを脱水すること、さらに温度の上昇とともにグリコシド結合の開裂に触媒作用を与えることが判明した。この結果を鑑みて1℃/minの低昇温速度で熱分解を試みたところ、レボグルコセノンを25 wt%以上の高収率で得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画予定では、今年度は、1)イオン液体調製法の習熟、2)多種のイオン液体を本反応系に適用、3)各種熱分解操作因子が生成物収率に与える影響を検証(H25年度中期にかけて)、であった。研究開始後、1)を取り止めて市販のイオン液体を購入して使用したこと、初期段階で本反応系にはイオン液体中のアニオンが主に触媒作用を与えることを見出したことにより、2)を予定より早く完了でき、3)を並行して実施できた。このような経緯により、次年度に予定していた詳細な反応メカニズムの解明まで研究を進めることができ、それも概ね達成することができた。したがって、今年度の研究は予想以上に進展したということができる。 一方、計画当初ではイオン液体の性質や反応操作条件によりセルロース熱分解生成物を自在に操ることを考えていたが、今年度の成果である反応メカニズム等々から判断すると、このような操作因子をもってしても単純に提案手法を用いるだけでは選択的に製造可能な化学物質はレボグルコセノンのみと考えられる。これは本研究のアイデアを部分的に否定する結論ではあるが、レボグルコセノンはセルロースのみ(実際にはセルロースのみではなく、グルコースをはじめとする単糖・多糖類から提案手法を用いて生成可能であることを、今年度の研究の中で見出している)が生成できる高付加価値化合物であり、既往の手法では高々数wt%程度であった収率を25 wt%以上に引き上げたことには価値があり、想定を上回る成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
計画段階で次年度の研究内容は、今年度の研究の継続・反応メカニズム解明・レボグルコセノン小規模実生産を想定したスケールアップ反応試験・リグノセルロース熱分解にイオン液体含浸法を適用、等であった。前者2つは前述したようにすでに目処がついた。したがって残りの研究に注力することになる。しかしながら、今年度の研究で判明した、熱分解昇温速度が遅いほうがレボグルコセノンの収率が高くなるということは、スケールアップ反応試験で想定していた原料連続供給用スクリューコンベアー式熱分解反応器を用いた場合、昇温速度が早すぎて十分なレボグルコセノン収率が見込めないことを意味する。そこで今後の研究を方針転換して、イオン液体を含浸したセルロースを熱分解するのではなく、十分な昇温速度が適用可能なセルロース単味の熱分解で生じるタールを改質してレボグルコセノンを効率よく得るためのプロセスを構築することを目標にする。そのための手段として、イオン液体を包含したセルロース熱分解チャーを改質触媒(一種のSILP (Supported Ionic Liquid Phase))にすることを提案し、研究を実施する。このような触媒を使ってセルロース熱分解タールからレボグルコセノンが得られることは、H24年度中に既に一部実証している。リグノセルロースの熱分解にもここで提案する反応系を適用し、高付加価値化合物が得られるかどうかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画の一部変更に伴い、予定していた設備備品の購入は行わない。発生する残額を、新たに試みるセルロース熱分解タールの接触改質試験用反応器作製に必要な消耗品費、および生成物分析に必要な消耗品費に充てる。旅費は予定していたとおり成果発表のための国際学会と国内学会1件ずつに費やし、その他の経費は発生しない予定である。
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