研究概要 |
本研究では、バイオマスの主要構成成分であるセルロースから選択的に有用化学物質を得るための手法として、イオン液体を同質量程度混合して熱分解する方法を提案し、実験的検討を行った。各種カチオンとアニオンの組み合わせによる多種のイオン液体を本反応系に試した結果、スルホン酸アニオンをもつイオン液体を使うとセルロースから選択的にレボグルコセノンが得られることがわかった。レボグルコセノンは様々な高光学純度化合物の合成に有用なプラットフォーム原料として期待されており、本研究で開発した技術はこれを効率的に調製する新規な手法である。同イオン液体は、セルロースの脱水およびグリコシド結合の開裂に触媒的に作用し、その結果250~300℃でレボグルコセノンが生成する。最適なイオン液体、例えば1-butyl-2,3-dimethylimidazolium triflateの場合では、300℃でセルロース熱分解を完了した後の残渣からイオン液体をほぼ全量回収して再利用可能であった。セルロースからは20 wt%以上の収率でレボグルコセノンが得られ、一方、グルコース、シクロデキストリン、デンプンなど主にグルコースからなる糖類を原料とした場合でもレボグルコセノンが主要生成物として得られたが、収率は10 wt%に満たなかった。 上記したイオン液体の触媒作用は、セルロース単味の熱分解揮発性生成物に含まれる脱水糖単量体、多量体を同イオン液体で改質してもレボグルコセノンを調製できることを示唆する。そこで、スルホン酸系のイオン液体を含浸した液/固触媒を調製し、セルロースあるいはバイオマス熱分解揮発性生成物の改質試験に供したところ、脱水糖、特にレボグルコサンをレボグルコセノンへと変換する脱水反応に選択的に作用することが明らかになり、イオン液体の触媒作用を利用するバイオマス変換技術の今後の研究展開に新たな指針を得ることができた。
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