研究課題/領域番号 |
24760633
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
太田 英俊 愛媛大学, 理工学研究科, 助教 (90532094)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リグニン / フェノール / 芳香族合成 / 水素化脱酸素 / 触媒 / バイオマス / 資源 |
研究概要 |
本研究は、地上に最も大量に存在する芳香族高分子であるリグニンから工業的に重要な芳香族および脂肪族化学品をつくるための触媒反応の開発を目的としている。平成24年度は研究実施計画に記載したとおり、(1)水素化脱酸素反応によるフェノール類からのアルキルベンゼンの合成と(2)実バイオマス中のリグニンからのアルキルシクロヘキサンの合成を検討した。 1.フェノール類はリグニンの熱分解や触媒分解により大量に得られる重要な化合物群であり、これらを工業的に重要なアルキルベンゼン類に変換するための触媒反応の開発が望まれている。従来の反応では、環境負荷の高い有機溶媒を用いる必要があり、触媒の耐久性にも問題があった。今回我々は、豊富に存在し安価な水を溶媒とし、4-プロピルフェノールの水素化脱酸素反応によるプロピルベンゼンの合成を目的として触媒の探索を行った。その結果、本反応において金属酸化物に担持した白金とレニウムから成るナノ粒子触媒が非常に高い選択性(84%)を示すことを見出した。これは、水中で実施した反応としては最も良い値である。しかしながら、現段階では触媒の耐久性に問題があり、さらなる触媒の改良を行っている。また、その過程で安価なニッケル系ナノ粒子を担持した触媒が良い耐久性を示すことがわかってきた。現在、選択性は中程度であるが、さらなる改良により白金などの貴金属を用いない安価な反応系を開発できる可能性がある。 2.我々は既に水中でのフェノール類の水素化脱酸素反応により脂肪族炭化水素を高選択的に合成する技術を開発している(Chem.Commun. 2011)。この技術を応用し、実バイオマスであるリグニンから脂肪族化合物を合成する反応の開発を検討した。現在、炭素担持白金触媒(Pt/C)を用いて様々な前処理を施したリグニンの分解反応を行っているが反応はあまり進行していない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の実施予定は上記の(1)水素化脱酸素反応によるフェノール類からのアルキルベンゼンの合成と(2)実バイオマス中のリグニンからのアルキルシクロヘキサンの合成である。(1)に関しては、当初の予定どおり、目的とする反応に有効な貴金属触媒を探し出すことに成功し、さらに工業的により好ましい卑金属触媒(Ni)の発見に至った。反応機構など学術的にも興味ある結果が得られており、本研究期間中に学術論文を投稿する見通しである。また、(2)に関しては、我々が以前報告した触媒系をそのまま目的の反応に適用することができないことが明らかとなり、今後の展開を考える上で多くの有益な情報が得られた。結果としては当初の目的を達成できていないが、触媒設計や実バイオマスの前処理方法などたくさんの技術や情報を蓄積することができ、大変重要な過程であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に実施した研究計画(1)水素化脱酸素反応によるフェノール類からのアルキルベンゼンの合成において良好な結果が得られている。しかしながら、問題点として触媒の耐久性が低いことが挙げられる。平成25年度は、当初の研究計画に記しているように、反応機構や触媒の表面分析を行うことで触媒の耐久性が低くなる原因を究明し、さらに高機能な触媒の設計開発へと繋げていく予定である。また、当初の研究計画ではより困難と考えられるリグニンを用いた反応開発を計画してきたが、現段階ではリグニンの分解に利用できる触媒系を見出せていない。そこで、今後はより分解が進行しやすいと考えられるバイオオイル(リグニン分解により得られる油状物質)を炭化水素に変換する反応を検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.消耗品:有機合成試薬とガラス器具類は、触媒調製や反応の実施などに必要である。金属試薬は、貴金属である白金を中心とした後周期遷移金属化合物を10グラム規模で購入する際に必要である。 2.設備備品:電気炉は触媒調製時に必要であり、次年度の初めに導入する。オートクレーブは触媒反応を行うために必要な器具であり購入を検討している。 3.旅費:研究成果を国内の学会で報告する経費として計上する。
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