反応活性サイトの分子設計および反応場の疎水性の制御を目的とし、機能性原子団を導入したKeggin型へテロポリ酸(F-POM)と酸性カチオンからなるイオン結晶を合成し、その触媒機能を調べることを目的としている。Sn-R(RはOH、C4H9、C8H17)を導入したF-POMとセシウムカチオンからなるイオン結晶を合成し、これらを触媒とするアルコール類の過酸化水素酸化を実施したところ、Sn-C8H9を導入したF-POMが最も高い活性を与えることを前年度に報告した。 この理由を明らかにするために、本年度は各種F-POMの過酸化水素分解特性を調べた。ベンジルアルコールの過酸化水素酸化において、滴定法により過酸化水素の有効利用率を調べたところ、39、69、99%であった。また、ベンジルアルコールを反応系に加えずに過酸化水素の自己分解反応をおこなったところ、過酸化水素分解率は98、43、35%であった。これらの結果より、Sn-C8H9を導入したF-POM上では過酸化水素の自己分解がほとんど進行せず、その結果、過酸化水素が極めて有効に使われるため高い触媒活性を示したと結論した。Sn-C8H9の導入によって表面が疎水的になり、過酸化水素によって活性化されたF-POMが別の過酸化水素と反応して過酸化水素が自己分解するよりも、基質(アルコール類)との反応が優先的に進行するため、高い触媒活性を示したと推測した。 F-POMを触媒としてアンモニア存在下、ベンズアルデヒドを過酸化水素で酸化してベンズアルデヒドオキシムを生成するアンモオキシメーションを実施した。ベンズアルデヒドオキシム選択率は機能性原子団の種類によらず99%以上であった。触媒活性はベンジルアルコール酸化と同様の序列(OH<C4H9<C8H17)であり、Sn-C8H9を導入したF-POMが最も高いベンズアルデヒドオキシムを与えた。
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