地球大気組成種の非平衡原子・分子過程と高エンタルピー流の結合計算コードの開発を行った。従来の熱化学非平衡流体解析では、励起状態分布をBoltzmann平衡分布関数によって平均化する。それに対して本計算コードでは、プラズマ内部の原子・分子励起状態間の遷移過程を直接解くことで非平衡状態分布を計算する。考慮した遷移過程は電子・原子・分子間衝突による励起、電離、解離過程、重粒子間衝突による化学反応、輻射の放出・吸収過程である。真空紫外から近赤外までの主要な発光スペクトルを解析できるように各化学種の電子励起状態を選定してある。このようなマルチスケールな計算手法は、局所的に非平衡な原子・分子過程を伴う非定常プラズマの大域的な運動を記述することができる。そのため大気圏突入物体まわりの極超音速流れだけでなく、レーザーやマイクロ波を利用した推進技術、大気圧非平衡プラズマなど多くの先進的な応用技術に対しても適用可能であり、従来法よりも格段に正確な数値解析が可能である。大気圏突入問題を想定した原子・分子過程の非平衡数値計算コードがNASAやESA等の欧米の研究チームによって開発が進められているが、それらの実験データはもちろん、計算コードも一般公開されていない。こういった現状を打破し、プラズマ流れ場の実験や数値解析を更なる高みへと引き上げる礎を築くためには、より高温・低密度な領域まで網羅した本統合計算コードの構築が求められる。パルスレーザーによって生成されるプラズマ流を例として、非平衡原子・分子過程を考慮することで輻射冷却率が流れ場に及ぼす影響を定量的に明らかにし、その簡易輻射モデルを提案、得られた解析結果を纏め学術誌に投稿し、掲載された。
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