研究課題/領域番号 |
24760665
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
永井 弘人 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50510674)
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キーワード | 羽ばたき翼 / 翼断面形状 / 空力特性 / モーフィング / 低レイノルズ数 / 非定常流れ |
研究概要 |
高振動数で羽ばたく昆虫の羽ばたき翼の断面形状は、平板ではなく波型断面形状をしており、その翼断面形状には羽ばたき翼の性能を向上させる空力的・構造的秘密が存在していると考えられる。本研究は、昆虫サイズの低レイノルズ数羽ばたき翼の断面形状について、従来の平板断面よりも高揚力・高効率となる断面形状の可能性を実験的・数値的研究により調べることを目的としている。 25年度(2年目)は、1年目に開発した「複雑断面形状を考慮した羽ばたき翼の数値流体解析コード」を用い、実際のマルハナバチから測定した翼断面形状が羽ばたき翼の空力特性に与える効果について数値的研究を行った。昆虫の翼断面形状は、波型形状とキャンバによって特徴づけられる。羽ばたき翼における波型形状は、数値解析結果から空力的には効果が小さいことが明らかになった。一方、キャンバについてはその空力的効果は大きいが、羽ばたき運動の場合、一方のストロークで正のキャンバとして空力性能を高める働きをしたとしても、もう一方のストロークでは負のキャンバとなり空力性能を低下させ、結果として1周期平均では効果が相殺されるため、平板翼の性能を超えるものではなかった。 しかし、本研究では翼断面形状をストローク毎に変化(モーフィング)させることで、平板翼を超える空力性能を発揮できることを明らかにした。翼断面形状をストローク毎に変化させる方法として、ヒンジで接続された前後2枚の翼を1枚の翼として羽ばたかせ、前後それぞれの羽ばたき運動を制御することで常に正のキャンバにすることができる方法を提案した。本手法は、比較的簡単な手法で羽ばたき翼の断面形状の制御することができ、平板翼を超える翼断面形状という研究目的を達成するものである。これまでの成果は数値的研究によるものであるので、最終年度ではその実証試験を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、従来の平板断面よりも高揚力・高効率となる羽ばたき翼の断面形状の可能性を実験的・数値的研究により調べることを目的としており、これまで2年間(24年度・25年度)の数値的研究の成果により、平板翼を超える剛体翼としての断面形状を発見するには至らなかったが、前後翼の運動の制御により翼断面形状をストローク毎に変化(モーフィング)させることで、平板翼よりも空力性能が向上することを数値解析より明らかにした。この手法により、比較的簡単な手法で本研究の目的である羽ばたき翼の高揚力・高効率断面形状を達成することができ、研究はおおむね順調に進展していると言える。しかし、これまでの成果は数値的研究によるものであり、実験的な検証が必要である。最終年度(26年度)では、スケールモデルを水中で羽ばたかる模型実験により非定常流体力の測定を行い、数値解析結果の検証および高効率羽ばたき翼の実証を行う。25年度ではその実験装置の設計開発を既に行った。 当初計画では、1年目に2次元羽ばたき翼の数値解析および模型実験装置の設計開発、2年目に2次元翼の模型実験、3次元翼の模型実験装置の設計開発および数値解析、3年目に3次元翼の数値解析および模型実験を行うという予定であったが、25年度より研究代表者が所属研究機関を変更したことに伴い、研究計画を次のように変更した。すなわち、24年度(1年目)に2次元および3次元羽ばたき翼の数値解析コードの開発を行い、25年度(2年名)に2次元および3次元羽ばたき翼の高効率翼断面形状に関する数値的研究を行い、26年度(3年目)に羽ばたき翼の高効率翼断面形状に関する実証試験を行うように変更し、研究の効率化を図った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の2年間の成果により、断面形状の制御を利用しなければ、昆虫の波型断面形状は平板翼の空力特性を超えるものではないことが明らかになった。しかし高振動数で振動する羽ばたき翼は慣性力の影響が大きいため軽量構造である必要があり、そのためにはできるだけ薄翼であることが望ましい。平板翼の場合、薄翼化すると羽ばたきに耐えうる剛性を保つことができず、大きな変形を伴って空力性能を低下させる原因となる。本研究のこれまでの成果は空力的観点からのみ評価してきたが、昆虫サイズの小型飛翔体の翼にとって、軽量かつ高剛性の翼構造を達成することは非常に重要であり、本研究最終年度では、昆虫の波型断面形状の構造的効果についても評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者が25年度(2年目)より所属研究機関を変更したため、使用予定であった実験設備等が変更になり、変更後の所属機関設備に合わせた装置設計を行うため、当初1年目に予定していた実験装置の設計開発を2年目以降に延期し、先に数値解析コードの開発および数値的研究を行った。そのため、実験装置の設計開発費として計上した1年目の経費は2年目に未使用のまま残った。25年度(2年目)は、羽ばたき翼模型実験装置の設計開発を行い、当該年度予算と24年度(1年目)から繰り越された経費とを合わせてその費用に充てた。 25年度では模型実験装置の設計を行い、それに必要な装置の購入を終えているが、26年度に繰り越された費用は、模型実験を遂行する上で必要な実験消耗品や翼モデルの製作費に充てられる。
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