研究課題/領域番号 |
24760667
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
秋田 剛 千葉工業大学, 工学部, 准教授 (20405343)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 定常熱試験 / 熱数学モデル / 温度予測 / 熱変形 |
研究概要 |
本研究では,わずかな熱変形が問題となる高精度宇宙機構造の設計・開発を迅速化・高精度化を目指し,低コストで信頼性の高い熱変形の定常状態予測法の構築を目標としている.今年度は,熱問題の定常状態予測法の構築に集中して,研究を実施した.定常温度の予測ができれば,熱ひずみを求めて定常熱変形の予測を行うことが可能となる. 研究実施計画の段階では,詳細な熱数学モデルを利用した定常状態予測法の構築を考えていたが,研究協力者との実際の現場の要求や熱試験データの振る舞いに関する議論を通して,より簡便な定常熱伝導の理論式から導出可能な指数関数を基底関数とした熱モデル式を利用する方法の可能性を考えた.本方法では,熱試験の過渡データが指数関数的な振る舞いをすることに注目して,熱モデル式を指数関数の線形和で近似する. 今年度はまず熱伝導・熱伝達を考慮した多自由度線形熱数学モデルの定常熱伝導の解析解を導出した.また簡易的な摂動法を導入して,輻射の効果が入った場合に線形問題の固有値の整数倍の固有値を指数とする解が存在しうることを導いた. 次にThermal Desktopで作成した熱数学モデルを使って数値実験を行い,指数関数の線形和でのモデル予測性能の検証を行った.シンプルな熱数学モデルを使った実験ではあったが,熱伝導・熱伝達のみを考慮した場合だけでなく,輻射があった場合でも基底関数となる指数関数を増やすことで,かなり精度よく定常状態を予測できることを確認した.また過去に行った定常熱試験のデータを利用して,実データを使った簡易的な検証を行った.モデル推定に用いる過渡データの範囲で定常状態の予測精度が異なるものの,比較的良好な結果を確認している. 本方法は,定常状態のみならず,軌道上の周期的な熱変動を受ける場合の近未来予測にも有効である考えられ,応用範囲が広く,かつ簡便な温度予測法になり得る可能性を有している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,定常状態の温度および熱変形の効率的な予測法の構築を目的としている.予測モデルとして,精密な熱数学モデルに代わって指数関数を基底関数とした簡便なモデルを提案した.本モデルの理論的な導出と,数値計算データおよび実試験データを使った定常温度予測の検証を行い,概ね良好な結果を得ることができた.本方法は,定常状態の温度予測を行う有効な手段になり得ると考えられる. 現状では,過渡データを使ったモデル構築は,最小二乗法によるパラメータ推定で行っている.研究実施計画の段階では,推定をアンサンブルカルマンフィルタを使った逐次データ同化を利用する予定であったが,熱モデルの変更に伴い,一括処理のデータ同化である最小二乗法による推定を行っている.アンサンブルカルマンフィルタは,利用するモデルに依存せずに用いることができるので,今年度提案した指数関数を基底関数とした簡便なモデルに適用し,逐次推定を行うことも可能であると考えられる. 定常状態の熱変形に対する検証は未実施であるが,一端定常温度の予測ができれば,熱ひずみを与えることで,変形の予測を行うことが可能であり,今年度は熱問題における定常状態予測に集中した.
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今後の研究の推進方策 |
定常温度予測に関して,今年度提案した指数関数を基底関数とした熱モデル推定の検証を,数値計算データおよび実験データを使って行う.また,定常状態の温度から変形を算出する計算コードを開発し,検証を行う.輻射等の非線形要因や,推定に用いる過渡データの質が予測精度に与える影響を詳細に検証する. また,アンサンブルカルマンフィルタを用いた逐次推定を導入して,有効性を検証する.アンサンブルカルマンフィルタは,非線形問題と相性の良い方法なので,輻射の影響が強い場合にも有効に機能することが期待されるが,システムノイズなどのチューニングパラメータが必要となる.コード開発とあわせて,推定の効率を上げる方法を検証したい. 今年度構築した新たな熱問題の推定方法に関して,成果発表等を早い段階で行く予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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