本研究は音波を用いてワイヤレスに情報を伝送する水中音響通信に関する.特に浅海域での音響通信は水中ロボットの制御や海洋工事での映像伝送など多くの需要がある一方で,マルチパスやドップラー効果の影響により安定した通信の実現が難しいことで知られている. 申請者はマルチパスの影響を効率よく測定しながらメッセージの伝送を同時に行うマルチパス測定型多重通信方式を水中音響通信に適用することを提案してきた.本研究では伝送速度と伝送品質の改善を目的に,アレイ信号処理をマルチパス測定型水中音響多重通信に適用する.さらに,その効果を実証実験により確認することを目的としている.平成24年度はアレイ信号処理をマルチパス測定型水中音響多重通信に適用し,従来の通信方式と比較して通信品質を大きく向上できることを水槽実験により確認した. 平成25年度は実際の浅海域で実験を行った.港湾での実験は(1)ランダムに変化する海面,(2)信号を散乱させる気泡などの存在,(3)非定常な生物雑音,(4)海面レベル,海水温,塩分濃度の時間変化など,前年度の水槽実験では考慮されていない影響が存在する.実際の海域での通信実験は前述の影響が通信システムの性能に与える影響を明らかにすることが出来ることから,実用的な知見を与える上で必要不可欠である. アレイ信号処理を適用したマルチパス測定型水中音響多重通信を行う送受信機を構築し,港湾において通信実験を実施した.その結果,アレイ信号処理を適用したマルチパス測定型水中音響多重通信は従来用いられてきた通信方式と比較して,通信品質を大きく向上できることを明らかにした(現在投稿中). 本研究の成果は,海底に設置されたセンサ同士の通信などマルチパスの影響が主な水中音響通信にそのまま適用可能である.一方,移動体同士の通信などではドップラー広がりの影響を未だ解決する必要があるため,今後の課題である.
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