研究課題/領域番号 |
24760673
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
木船 弘康 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (90323849)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | タグボート / ハイブリッド |
研究概要 |
本提案は研究代表者がこれまで開発に携わった電池推進船「らいちょうI」の技術をより大型の船舶に適用することを念頭に、大型のタグボートをターゲットとした省エネ推進システムの研究開発を行うものである。本申請における研究は大きく3stepとなる。 Step 1:実際のタグボートがどのような使われ方をし、どのような燃料消費パターンを持つのかについて、実船調査を通じて詳細なデータを得る。これにより、作業内容に応じた運航モデルの構築を行う。 Step 2:メインエンジンや発電機、各種電気機器、電池がどのように連携し、エネルギーを融通すべきかを検討し、新しい推進システムの構築を目的とした基本設計手法を提案する。 Step 3:提案設計法に基づき、性能要件を満たす推進システムの設計を行う。基本設計された推進システムモデルに対し、実測で得られた運航データを流し込み、環境性能を評価する。 平成24年度では既にStepの1および2は完了している。具体的には、技術協力先のタグボート運行事業社の協力を得て実際のタグボートの運行状態の詳細を把握することができた(Step 1)。船内各機器の性能を最大限に発揮するためのシステム構成について、あらゆる可能性を検討し、低燃費性に加えて小型化、導入コスト低減まで含めた検討を行い、新しい推進システムの構築を目的とした設計手法を提案した(Step 2)。その研究成果の一部は学術講演会等で発表している(なお本発表では優秀講演発表賞を受賞している)。現在の研究ステージはStep 3にあり、提案設計法の計算精度を高めるための検証を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
タグボートでのエネルギー消費を最適化し、排気ガスの総排出量を抑制するためには現状の使用環境や使用傾向を詳細に把握する必要がある。特にタグボートは他の多くの貨物船と異なり、負荷の変動が非常に大きく、かつ急変する傾向にある。 ①そこでタグボート事業者の協力を得て、実際のタグボートを訪問し、メインエンジンや発電機エンジンのエネルギー消費パターンを詳細に把握することとした。このデータ計測にあたり、タグボートの安全運航上、制御システムに影響を与えない手法が求められた。そこで独自に画像処理手法によるデータ収集手法(光学系計測システムおよびデータ解析ソフト)を開発し、メインエンジンの回転数や負荷率等のデータを収集した。結果的に当初目標より若干多めに有効データを得ることができた。 ②上記の実船計測データは地域性と作業内容の特殊性とに分類し、整理することができた。このデータの一部解析結果から、タグボートのハイブリッド化以前に実施可能な省エネ対策も明らかになってきた。その対策手法については、既に学術雑誌に論文投稿済みであり、現在査読中である。 ③タグボートをハイブリッド化するための基礎データとして、メインエンジン、発電機エンジン、オルタネータ、電力変換器(インバータおよびコンバータ)、電動発電機、クラッチ、ギヤなどの効率特性を複数の船舶の完成図書をもとに調査し、整理した。 ④ハイブリッドタグボートの新推進システムの可能性を新規性、低燃費性、小型化、導入コスト低減などの観点から詳細に検討し、それらが従来推進システムと比較してどの程度高効率になるのかを算出可能なシミュレーションを構築した(当初は平成25年度実施予定)。現在、このシミュレーションの精度向上のため、さらなる検証を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
現在検証を進めているハイブリッドタグボートの効率性に関する計算結果の精度確認ができ次第、様々な運航パターンに当てはめて地域性や作業内容を加味したシステムの提案をする予定である。 昨年度構築したシミュレーションでは考慮しきれていないタグボート特有の運航状態があるため、これらを十分に吟味したシミュレーションの高度化に現在取り組んでいる。加えて、現在までに構築してきたシミュレーションが肥大化しすぎており、コンピュータの処理能力を圧迫し始めており、研究進行上問題が発生しつつある。より高性能なコンピュータの導入により、ある程度は改善する見込みがあるものの、シミュレーションのプラットフォームの限界もあることが判明している。そこで、シミュレーションの基本概念と構成はそのまま継承しつつ、コンピュータのデータ処理を最適化しやすくするためのソフトウェアの再構築を実施する予定である。 再構築したシミュレーションの精度検証ができ次第、これまで得られたタグボートの運航パターンをシミュレーションソースとして利用し、燃料消費計算を行う。ここまでは、理想計算になるが、実際には機器メーカーの製品ラインナップから機器を選択する(すなわち特注としない)ことで低コスト化が実現できる。そこで、シミュレーションを通して得られた各機器の定格容量を元に、現実検討を行う。具体的にはメインエンジンや発電機、電力変換器などの各機器に要求される定格出力、定格回転数、定格電流を満足する製品を既存製品群から選定する。 その上でどの程度の効率向上(低燃費化)が見込めるかを最終的に計算で示したい。また昨年得られている運航データを一部補完する必要が生じているため、新たな機材の使用により、実運航データを改めて収集する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
実際のタグボートから排出される排気ガスの黒鉛濃度を計測する必要があることから、そのための計測機器の手配、計測機器の設置、実計測、撤収等の作業が発生する見込みである。50万円を超えて発生する費用は以下の通りである。 黒鉛濃度計測器:500千円(レンタルを予定)
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