最終年度は人工衛星搭載合成開口レーダ(SAR)のさらなる海上風推定精度をめざし,沿岸域において報告されている風速推定時の過小評価傾向についてその特徴を明らかにした.対象海域は初年度に実測観測データを整備した神奈川県平塚および和歌山県白浜とし,SARデータを実測風向からOffshore(陸から沖に向かう風)時とOnshore(沖から陸に吹く風)時に分類し,風速変換の水平分布図を作成した. この結果,Offshore時には明確に海岸線に沿う様に離岸距離に従って風速が陸から沖に向かって増加したのに対し,Onshore時はわずかに沖の方が風速が高かったが,明確な変化は認められなかった.なお,この傾向は日本以外のデンマーク西岸においても同様な結果が認められた.この結果は次年度以降,論文として発表予定である. また,数値気象モデルの最適な大気境界層スキームの選定するため,10種類のスキームを比較検証し,Mellor-Yamada-Nakanishi-Niino Level 2 and 3 (MYNN2 and MYNN3)の有効を示した. 研究期間全体を通して,洋上風力発電に資する日本沿岸域の海上風推定の手法開発を実施した.特に欧州で既に実績のあった人工衛星搭載合成開口レーダ(SAR)と数値気象モデルに着目し,両者の利点を活かし,欠点を補うような組み合わせ手法を試みた.まずはSARによる海上風推定では,既存のモデル関数(GMF)の比較によって大気安定度がSAR風速推定に与える影響について評価し,さらにこの影響を除くためのGMF選定と影響補正手法の開発を行った.また,風速推定に不可欠な風向情報として数値気象モデルWRFの出力の有効性を示し,SARと気象モデルを組み合わせた海上風手法を確立した.最後に,この手法を使って和歌山県白浜沖の風況マップを作成し,その精度評価を実施した.
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