ヒ素(As)は製錬廃液に多く含まれる不純物であり、As含有硫化鉱物に由来している。Asは溶液中において亜ヒ酸(As(III))またはヒ酸(As(V))として存在し得るが、製錬廃液中には、特に毒性・溶解性の高い前者の形態で多く含有されている。本研究では、好熱好酸性・鉄硫黄酸化古細菌Acidianus brierleyi(以下、Ac. brierleyi)を利用したバイオプロセスにおいて、製錬廃液中のAs(III)の酸化・不動化を試み、最終的に二次鉱物スコロダイトのバイオミネラリゼーションに至る成果を得た。 ここで対象とする銅製錬廃液は、高温(50-80度) かつ強酸性(pH 1-2)であり、Fe(II)およびAs(III)がそれぞれ1000 ppm程度含まれる。一方、Ac. brierleyiは至適pH1.5-2.0、温度70度とし、Fe(II)をエネルギー源として利用できるため、本菌の廃液処理への適用を考えた。 本研究において初めて、本菌が解毒機構として酵素的As(III)酸化能を有することを明らかにした。さらに、培地にFe(II)と酵母エキスを同時に添加し混合栄養的に増殖させた場合、As(III)酸化効率は大きく向上した。細胞表面が電子媒体となって、As(III)酸化・Fe(III)還元カップリング反応が促進されている可能性が示唆された。 Fe(II)濃度とAs(III)濃度の初期設定値および、酵母エキスの有無によって、微生物学的に酸化されるFe(II)/As(III)のモル比は大きく左右された。モル比が > 6.3では、ジャロサイトが二次鉱物として生成し、Asはジャロサイトへの表面吸着のみで不動化していた。2.5 < モル比 < 5.4 で生成する二次鉱物は非晶質であったが、モル比 = 1.3においては、白緑色の結晶性スコロダイトが生成し、100%に近いAs不動化効率が達成できた。 スコロダイトは、その熱力学的安定性、低鉄要求性、高密度性から、廃棄に際して理想的な形態である。本研究では、ワンステップのバイオプロセスにてAs(III)をスコロダイトとして不動化することに成功した。
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