研究課題/領域番号 |
24760697
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉山 貴彦 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90353440)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リチウム / 同位体分離 / 置換クロマトグラフィー |
研究概要 |
DT核融合の燃料であるトリチウムはリチウムの同位体である6Liと中性子との核反応により生産せねばならない。6Liの天然存在比は7.6 %程度であり,例えば固体ブランケットでは6Liを40~90 %程度にまで同位体濃縮しなければならない。本研究の目的は,核融合炉ブランケット材であるリチウムの同位体濃縮に用いる置換クロマトグラフィー法の分離性能の向上である。これは,マクロ孔を有するシリカビーズを担体とした同位体分離用充填剤の新規に開発することと,独自に開発する分離性能解析手法により充填剤の粒径および平均細孔径が分離性能に与える影響を評価し最適化することによって行う。 平成24年度は,分離性能解析手法の開発を中心に行った。従来の解析モデルは,粒内拡散が律速であることを前提条件として,総括物質移動係数をパラメータとして溶液相の濃度分布のみを計算するものである。この様なモデルでは,充填剤の粒子径や細孔径が物質移動速度に及ぼす影響を評価することができない。そこで,置換クロマトグラフィーの物質移動過程をバルク流れ,境膜移動,粒内拡散,吸脱着から成ると仮定し,これら全ての素過程を境界条件により接続して直接計算するモデルを開発した。カラム内および充填剤粒子内を空間的に差分化して常微分方程式で表わす物質収支式を立て,これと平衡関係式を連立させて数値的に濃度分布を計算した。ここで,表層近傍のみが多孔質である担体を用いた吸着剤を外層多孔質型吸着剤と呼ぶ。試みに外層多孔質型吸着剤を用いた場合のクロマトグラムを計算したところ,展開距離およびHETPを短縮でき,置換クロマトグラフィー法によるリチウム同位体分離に有用であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
触媒作製のため当初使用予定であった実験室(名古屋大学工学部6号館同位体分離実験室)が耐震工事により平成24年10月まで使用不能であった。この工事は補正予算により急遽行われたため,代わりの実験室を準備することができなかった。そのため,予定を組み替えて調整した。具体的には,平成25年度に実施予定であった分離性能解析手法の開発を平成24年度に行い,吸着剤の作製と置換クロマトグラフィー実験を平成25年度に行うこととした。 分離性能解析手法の開発については,置換クロマトグラフィーの物質移動過程をバルク流れ,境膜移動,粒内拡散,吸脱着から成ると仮定し,これら全ての素過程を境界条件により接続して直接計算するモデルの開発が完了し,充填剤の粒子径や細孔径が物質移動速度に及ぼす影響を評価することが可能となった。また,開発したモデルおよび計算コードにより,外層多孔質型の吸着剤を用いた場合のクロマトグラムを試算したところ,展開距離およびHETPを短縮でき,置換クロマトグラフィー法によるリチウム同位体分離に有用であることがわかった。この成果は,平成25年度に実施予定の吸着剤作製に指針を与えるものであり,当初予定していた以上の成果を得た。 以上より,年度間のバランスを考慮したとして,全研究計画に渡る達成度の自己評価は45 %程度である。やや遅れているものの,平成25年度に鋭意努力することで挽回することは可能である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,触媒の作製および置換クロマトグラフィー法によるリチウム同位体の分離実験を行うとともに,最終年度としてのまとめが必要である。 触媒の作製については,富山大学水素同位体科学研究センターの田口明講師の協力を得られることとなり,円滑・合理的な遂行を期待できる。これにより,平成24年度に実験室を使用できなかったために生じた遅れを取り戻すことで計画している。また,平成24年度に分離性能評価手法を確立しているので,吸着剤の粒子径や細孔径,温度や流量などの運転条件が分離性能に及ぼす影響を評価することができる。したがって,その成果を利用することで,実験を効率的に行うことが可能と考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
触媒の作製においては,必要な装置として,ロータリーエバポレータ・EYELA,N-1000(211千円),真空ポンプ・EYELA,EVP-1100(197千円)を整える。吸着剤担体や吸着剤の費用としては600千円程度を予定している。 置換クロマトグラフィー実験においては,必要な装置として,プランジャーポンプ・EYELA,KP-12-13(400千円),フラクションコレクタ・EYELA,DC-1500(368千円),リミタ付圧力計・日本精密科学,NPG-250L(100千円)を整える。また,クロマトカラムや金属製配管・バルブ等に200千円程度必要である。 成果報告は,2013年10月にフランスで開催される国際会議「TRITIUM2013」(700千円),日本原子力学会秋の大会(50千円),同位体科学会(30千円)にて行うことを予定している。
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