プラズマ中のタングステンイオン密度を決定するにはタングステンイオンの電離・再結合断面積が必要であり,多くの場合には理論的に計算されたものが用いられているが,その精度は全く保証されていない.本研究では,近年開発された原子構造計算プログラム FAC によって高精度な断面積の計算を行うとともに,その精度を実験的に測定されたスペクトル線の強度比から評価し,これによって誤差評価付き電離・再結合断面積を世界で初めて生産することを目的とした. まず,FAC による電離平衡下での44価のタングステンイオン(W44+)に対する45価のタングステンイオン(W45+)の密度比の理論計算を行った.電離平衡下では,W44+ に対する W45+ の密度比は W45+ の再結合断面積に対する W44+ の電離断面積の比で表される.W45+ の再結合過程として放射再結合と二電子性再結合を考慮した.W44+ の電離過程として電子衝突による直接の電離と自動電離準位へ励起された後に自動電離する過程を考慮した.この密度比を電子衝突のエネルギーに対して計算し,これを電気通信大学の電子ビーム・イオントラップ装置で測定された W44+ に対する W45+ の密度比と比較した.その結果,両者は定量的に一致することが判明し,計算値の正しさが測定誤差の範囲内で確認された. 次に,FAC による電離平衡下での密度計算を拡張して W45+ に対する W46+ の密度比の理論計算を行った.この密度比を欧州の大型トカマク型装置 JET のプラズマ中で測定された W45+ に対する W46+ の密度比と比較した.その結果,両者の系統的な差はわずかに 20% 程度で収まり,計算値の正しさが確認された. 以上から,原子構造計算プログラム FAC で計算したタングステンイオンの電離・再結合断面積が実験の測定誤差の範囲内で正しいことが確認された.
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