本研究では、放射性セシウムを回収して廃棄物を減容することが可能な分離試薬を開発することを目的に研究を実施した。ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属イオンが共存する水溶液においても、セシウムイオンを選択的に認識できるベンゾクラウンエーテルの誘導体(アセチル型ジベンゾ-20-クラウン-6-エーテル)を開発することに成功し、これをシリカゲル粒子やゼオライトに担持させた有機無機ハイブリッド型の分離材料を開発した。この分離材料はナトリウムやカリウムと比較しても約10倍の錯生成定数を示すことが明らかになり、セシウムイオンを効果的に濃縮する能力を持つことが示された。 平成25年度は、前年度に開発されたアセチル型ジベンゾ-20-クラウン-6-エーテルがどのようにセシウムイオンを認識しているのかを明らかにする研究と、これをポリスチレンや塩化ビニル等の高分子微粒子と組み合わせた有機系の分離材料を開発する研究を実施した。前者では、中性子小角散乱法とDFT計算を組み合わせることで、アセチル型ジベンゾ-20-クラウン-6-エーテルとセシウムイオンによる安定な錯体構造を決定した。その結果、セシウムイオンの選択性にはベンゼン環由来のパイ電子とセシウムのd軌道の相互作用が深く関与することを明らかにした。後者では、アミノ基で表面修飾された高分子微粒子に対しジベンゾ-20-クラウン-6-エーテルを、化学的に導入する方法を開発した。この微粒子を用いてセシウムイオンに対する吸着挙動を分析したところ、良好にセシウムイオンを捕捉する粒子と期待どおりの機能を示さない粒子が得られた。複数の粒子の吸着特性を検討した結果、原因は微粒子表面の微細構造と表面電荷に有り、表面の物理的・化学的構造を適切に設計すれば、ジベンゾ-20-クラウン-6-エーテル単体としての性能を上回る分離試薬を開発できる可能性が示された。
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