本研究は放射線環境下での固体材料を用いた水処理における放射線効果を解明することを目的としている。放射線環境下では水の分解により水素と過酸化水素が生成する。プロセスの安全性を確保するためには水素生成量の評価が必要であり、また、過酸化水素の生成は金属材料の腐食を誘発するため、機器の保全には過酸化水素生成量の評価が重要となる。そのため、固体材料と水との共存状態への放射線照射による水素および過酸化水素の生成について詳細に研究する。 昨年度までの研究により、水素については水の直接的な放射線分解反応に加えて、ゼオライトへのエネルギー付与により付加的な生成反応が誘起されることが明らかとなった。また、過酸化水素がゼオライト細孔内で水分子と酸素に分解する反応が生じ、過酸化水素の蓄積が抑制されることを示した。そこで、本年度はこれらゼオライトに起因する反応過程の各種ゼオライト間での比較を進めた。 ゼオライトによる付加的な水素生成反応を、構造および組成の異なるゼオライト間で比較した。その結果、アルミニウム含有率の高いゼオライトで水素生成反応の効率が高いことが分かった。また、過酸化水素の生成挙動にもアルミニウム含有率の影響が観測され、高アルミニウム含有ゼオライトで顕著な過酸化水素の蓄積抑制効果が認められた。これらの結果から、ゼオライトに起因した放射線誘起反応は、ゼオライト骨格中のアルミニウムが反応活性点となっていることが示唆される。 そこで、アルミニウム含有率の高いX型ゼオライトを用いて放射線分解反応に対する酸素の効果を調べた。その結果、照射時に酸素が存在することで、ゼオライトによる付加的な水素生成反応が低減されることが分かった。加えて、X型ゼオライト共存下では酸素飽和条件での照射においても、過酸化水素の蓄積が抑制されることが明らかとなった。
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