研究課題/領域番号 |
24770005
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
中山 祐二 鳥取大学, 生命機能研究支援センター, 助教 (40432603)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 脆弱X症候群 / トリプレットリピート / 染色体工学 |
研究概要 |
遺伝性精神遅滞の代表的疾患である脆弱X症候群の原因遺伝子は、X染色体長腕末端に存在するFMR1遺伝子であり、本遺伝子の非翻訳領域内のCGGリピートが、多くは母性遺伝において不安定化し、伸長する結果、プロモーターが高度にメチル化されて遺伝子の発現抑制が起こる。本研究は細胞工学的手法、また染色体工学的手法を用いて、脆弱X症候群の病因の本態とも言えるCGGリピートの不安定化のメカニズムを細胞レベルで解析できる系を構築することを目的としている。具体的にはマウスES細胞とマウスEG細胞の細胞内環境、特にメチル化の初期化能の差に着目して、細胞融合、あるいは微小核細胞融合法を用いた染色体導入によって保因者由来のX染色体をそれぞれの細胞内に導入し、リピートの不安定性を評価する。今年度はまず、保因者由来X染色体を微小核細胞融合法によりマウスES細胞に直接導入してCGGリピートの不安定化を検討する実験を行った。しかし薬剤選択により得られたクローンの解析をした結果、X染色体そのものが脱落しているという結果になった。本結果がリピート不安定化と関連するのかどうかは現時点では不明であるが、染色体脱落に関しては臨床研究での報告もあり、追試を行いたい。一方、申請者の共同研究グループでは人工染色体操作技術を利用して、免疫沈降によって人工染色体そのものを回収し、そこに結合する因子を解析するプロテオミクス技術(染色体免疫沈降法:ChrIP法)の確立を進めている。本研究では、CGGリピートに結合して、正常時、あるいは病態時のリピートのエピジェネティクスを制御しているようなリピート結合因子が存在すると考え、ChrIP法に適用するために、保因者由来のCGGx100 リピートをタンデムにつなげたものを持つ人工染色体の作成を進め、完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は保因者由来の体細胞をマウスES細胞、マウスEG細胞と細胞融合させ、CGGリピートの不安定性を評価すること、そして、(CGG)100を複数もつヒト人工染色体(CGG-HAC)の構築を完了させることを目標に掲げた。保因者由来のCGGリピートを複数個保持する人工染色体(CGG-HAC)の構築については、予定通り進めることが出来た。具体的には、保因者由来(CGG)100リピートを1,2,4,8個タンデム化したものをもつプラスミドから、Cre/loxP組み換えによって人工染色体上にタンデム化したCGGクラスターを挿入した。CGG-HAC構築の評価は組み換え部位のPCR、染色体構造異常の有無の確認、および導入CGGリピート長の安定性(導入前と同じ長さ)の確認・評価を持って完了した。一方、細胞融合は、実験手法そのものが、予期せぬ染色体異常が起こしやすいことや融合後の細胞のバリエーションが高いことが予想される。それに対して、微小核融合細胞法では特定の染色体を1本だけ導入したクローンを作成することができる。これらの事は事前に懸念事項としてあった。またマウスES細胞およびEG細胞の利用を思い立ったのは、細胞融合による体細胞の初期化の報告があったためであるが、幸いにもマウスES細胞に関してX染色体の導入が可能なクローンを入手出来たことから、初年度は、微小核細胞融合法による、保因者由来のX染色体のマウスES細胞への導入と不安定性の解析を先に実施した。しかし、本研究で得られたクローンの中でいずれもX染色体が保持されていないという結果になった。本研究では引き続き、微小核細胞融合法による導入の再試を検討したい。その際、マウスES細胞の別クローンを検討する。また、EG細胞については、資材の分与が遅れており、資材を受け取った時点で、当初の予定である細胞融合実験にも着手する。
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今後の研究の推進方策 |
リピート不安定性解析のための細胞培養系の構築に関して、細胞融合法および微小核細胞融合法(染色体導入)の両方で再検討する。ただし、EG細胞に関してはX染色体導入の際の薬剤選択が可能な株がないため、細胞融合による解析を遂行したい。EG細胞に関しては供与元で染色体異常が観察されたので、まだ分与まで至っておらず、再クローニングおよび染色体解析を実施してもらっている。微小核細胞融合法によるX染色体の導入の実験においては、導入後の薬剤耐性クローン内でX染色体の脱落が観察されたため、別のマウスES細胞クローンをも用いて実験を検討する。本研究の基礎資材であるマウスA9細胞のセットについては、これらの資材を染色体導入に使用するだけでなく、細胞融合実験に用いれば、リピート不安定性が配列に依存した(シス的働き)ものか、トランス因子(ヒト特異的因子)に依存するものかどうか示唆できる可能性があるため、融合する細胞の組み合わせも再検討も行い、実施したい。CGG-HACは初年度に完成することが出来た。次年度はCGG-HACを免疫沈降法によって回収するための条件検討を開始するとともに、ヒト体細胞にCGG-HACを導入し、実際の免疫沈降および得られる因子についての質量分析解析にまで進めたい。最後に、マウスA9細胞セットに関しては、メチル化、リピート長、FMR1の発現に関して一通りの解析が終了できたので、論文化を進めている。また、本資材を利用しての共同研究の依頼があったため、4月現在、資材を提供し、共同研究を立ち上げているところである。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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