脆弱X症候群(以下、FXS)の原因遺伝子FMR1の非翻訳領域内に存在するCGGリピートは正常では40リピートに満たない多型として存在している。保因者である母方由来のCGGリピートが世代を超えるたびに伸長し発症に至ることから、生殖系列あるいは胚性期のCGGリピートの不安定化こそがFXS発症の根本的病因である。さらにCGGリピートが伸長し、FMR1プロモーターおよびCGGリピート内のCpGが高度にメチル化されて遺伝子の発現抑制が起こるが、CGGリピートは体細胞ではほぼ安定であり、患者では高度のメチル化が維持されることが知られている。本研究では、FXSにおけるCGGリピートの制御および不安定化のメカニズム解明のため、1)胚性期環境を細胞融合法によって細胞系で再現して、CGGリピート不安定性を再現・評価する系の構築、2)CGGリピートに結合する因子を簡便に同定する手法の開発、3)保因者由来のCGGリピートとFMR1プロモーター領域を含む最小脆弱領域人工染色体の構築という3つの試みを進めた。1)の細胞融合では保因者または患者由来の異常に伸長したCGGリピートを持つヒトX染色体をそれぞれ持つマウス細胞株(申請者が樹立、未発表)とマウスES細胞との融合細胞を樹立し、CGGリピートの不安定性を長さとメチル化状態の変化によって評価した。しかし、この融合細胞ではCGGリピートの不安定化を惹起することは出来なかった。2)については、細胞内にタグ配列と標的配列を含むプラスミドを導入し、タグ配列に結合するタグタンパク質を介した免疫沈降法によってプラスミドを回収し、そのプラスミド上の標的配列に集積している因子を質量分析によって同定する方法の確立に至った。3)については、FMR1プロモーターおよび保因者由来CGGリピートという、メチル化を受ける最小ゲノム領域だけを持つ人工染色体の構築に成功した。
|