研究課題/領域番号 |
24770009
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
藤 泰子 国立遺伝学研究所, 総合遺伝研究系, 特任研究員 (10623978)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / エピジェネティクス |
研究概要 |
活性化状態にある遺伝子転写領域におけるDNAメチル化の機能を解明するため、遺伝子転写領域のDNAメチル化が大きく消失するシロイヌナズナmet1遺伝子変異体を用いたゲノムワイドな発現解析および公開データを利用した情報学的解析を行った。その結果、遺伝子転写領域におけるDNAメチル化が、単に転写量や転写恒常性を制御するのでなく、転写と関連する何か別の制御を担うこと、また転写領域が長く、恒常的に発現する遺伝子および分裂細胞で発現する遺伝子に多く認められることが示された。 これらの結果や既知の情報をもとに、「遺伝子転写領域上のDNAメチル化がDNA傷害を抑制する」と仮説をたて検証した。実際にDNA傷害応答遺伝子の発現解析を行った結果、met1変異体において幾つかのこれら遺伝子が高発現しているとともに、細胞周期チェックポイントのマーカー遺伝子も高発現していたことから、met1変異体においてDNA傷害が多発し細胞周期の遅延が生じていることが示唆された。また、DNA複製時のねじれのストレスを解消する因子トポイソメラーゼIの阻害剤に対して、met1変異体が非常に強い感受性を示した。一方、これらmet1変異体でみられた表現型および発現異常は、トランスポゾン特異的にDNAメチル化を消失するddm1変異体では見られなかった。以上の結果は、活性化状態にある遺伝子転写領域のDNAメチル化が、分裂細胞におけるDNA傷害を抑制する可能性を強く示唆する。 さらに、遺伝子転写領域上におけるDNAメチル化制御機構に関与する新規因子を同定するため、遺伝子転写領域上のDNAメチル化量が減少する遺伝子変異体の探索も進めており、これまでにいくつかの候補変異体の単離に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロイヌナズナmet1遺伝子変異体を用いた発現解析および情報学的解析および分子生物学的解析をもとに、「活性化状態にある遺伝子転写領域におけるDNAメチル化の機能解明」の端緒となる、新たなモデルを提唱することに成功した。ほ乳類と異なりDNAメチル化の変異体が致死性を示さないモデル植物シロイヌナズナを用いた本研究の成果は、遺伝子転写領域におけるDNAメチル化が、分裂細胞におけるDNAの傷害抑制に機能することを強く示唆する重要なデータである。 さらに、遺伝子転写領域上のDNAメチル化量が減少する遺伝子変異体の単離に繋がる基礎的データの取得や研究材料の整備も進んでおり、今後の研究の発展が期待され、本研究の進展は順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果は、遺伝子転写領域のDNAメチル化が、分裂細胞におけるDNA傷害を抑制する可能性を強く示唆する。そこで、遺伝学的な手法を用いて、遺伝子転写領域のDNAメチル化を消失するmet1変異体と、さまざまなDNA修復酵素変異体やDNA修復制御因子変異体との二重変異体を作成し、DNA修復機構の異常がmet1変異体の表現型に与える影響を調べる。 また、転写スプライシングの制御や遺伝子内部からの異常な転写の抑制など、遺伝子転写領域のDNAメチル化がもつ機能として考えうるその他の可能性を、情報学的手法および分子生物学的手法を用いて検証する。 さらに、遺伝子転写領域上のDNAメチル化量が減少する遺伝子変異体の探索をすすめる。これまでに得られた候補変異体のうち、遺伝子の転写領域に対する特異性が最も高い変異体を用いて、遺伝子転写領域におけるDNAメチル化の減少が、遺伝子変異に基づくかどうかを戻し交配などを行い確認する。遺伝的分離が観察された場合は、遺伝子転写領域上のDNAメチル化量の減少が遺伝子変異に起因する可能性が高いため、高速シークエンサー等を用いて変異箇所を同定する。また、研究材料の整備や変異体の探索を継続的に行い、より普遍的に遺伝子転写領域に影響する変異体を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
DNA傷害の発生頻度を調べるための試薬や植物の育成に使用する培地類、遺伝子発現解析を行うためのRNA抽出試薬、逆転写酵素などの酵素、試薬類、PCR関連備品、遺伝子転写領域上のDNAメチル化量が減少する遺伝子変異体の探索をさらにすすめるためのDNA抽出試薬やDNAメチル化解析試薬などの試薬類を購入する予定にしている。 また、サンプル調製や変異体探索が当初の予定より遅延しており、前年度に行う予定にしていた高額な研究費を要する高速シークエンサー解析およびそれにともなう分子生物学的解析を前年度中に行うことができなかったため、これらの解析を今年度に行う。そのため、高速シークエンサー解析関連試薬類やそれにともなう試薬類を今年度に購入する予定である。 さらに、本研究の成果を公表するため、国内外における学会への参加も予定している。
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