メタンは強力な温室効果を持ち、地球温暖化へ寄与している。大気へのメタン供給源の主要なもののひとつは湖沼である。実際に湖沼で生成されているメタンは大気へ放出される量の数十倍以上にも及ぶと見積もられ、その大半は湖沼内で消費されていると考えられている。湖沼でのメタン消費に携わる微生物であるメタン酸化細菌は、大気へのメタンの付加量の変化を通して気候へも大きな影響を及ぼし得る。従来の研究により、湖沼に生息するメタン酸化細菌の多くが無酸素または貧酸素環境に存在していることが明らかとなっている。これらの低酸素環境下でのメタン酸化細菌の機能に迫るため、野外から採取された試料を対象とした解析を行った。近年発見された貧酸素条件下におけるメタン酸化細菌の機能として、有機酸の生成が挙げられる。メタン酸化細菌が細胞外に放出した有機酸は、他の微生物に利用される可能性が考えられる。過去の研究から、有機酸を消費する鉄還元菌とメタン酸化細菌の共存が示唆されている試料を対象に、両細菌の微視的な分布を解析した。各微生物を蛍光色素で特異的に染色して顕微鏡下で観察したところ、両者が鉄酸化物を介在しながらも物理的に近接している例を確認した。解析の対象とした環境下において有機酸を介したメタン酸化細菌と鉄還元菌の共生関係が存在する可能性が示唆された。また、ダム湖の嫌気的な環境から、無酸素条件下でメタン酸化を行う可能性のある微生物を検出した。定量的な解析を行った結果、これらの微生物の全微生物に占める割合が従来知られている以上に高いことが明らかとなった。
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