森林の分断化は、残存する生物個体群や群集の動態の変化だけでなく、森林が担う生態系機能に対しても重大な影響を及ぼすと考えらえる。本研究では、北海道帯広市南部に分布する大小の断片林を対象として、分断後の樹木バイオマスの長期的な変化過程、ならびにそのメカニズムを明らかにすることを目的として研究を行なった。調査対象とした断片林では、分断後およそ60年が経過した1999年に、調査プロットが13の断片林に設置され、毎木調査がお行われた。伐採されずに存続した8つの断片林でプロットの追跡調査を行ったところ、バイオマスの変化量は断片林の大きさによって異なり、小さな断片林ほどバイオマスの増加量が大きい傾向が見られた。さらに、胸高直径を基準としたサイズ構造の比較や年輪を用いて推定した過去の撹乱履歴から、森林の分断後に林冠木(大径木)の枯死率が高まったことが示唆された。樹木群集の種組成は、断片林の大きさや林縁からの距離によって異なっていた。小さな断片林の種組成は、オノエヤナギやケヤマハンノキといった先駆種によって特徴づけられたが、12年間で大きな断片林の種組成に近づいていた。以上の結果から、(1)森林の分断化が、少なくとも50年以上の長期にわたって樹木群集の動態に影響を与えること、(2)分断後は一時的に森林のバイオマスが減少した可能性が高いこと、(3)エッジ効果は残存する植物群集の動態に影響を及ぼす主要な原動力であることが示唆される。
|