研究課題/領域番号 |
24770016
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
安房田 智司 新潟大学, 自然科学系, 助教 (60569002)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 海産カジカ / 性淘汰 / 精子競争 / 交尾 / 親子判定 / 系統関係 |
研究概要 |
交尾・無保護種の海産カジカ科魚類について、1)野外での観察と卵塊採集、2)マイクロサテライトDNA(msDNA)マーカーの開発、3)精子の運動性測定を行った。 1)野外と水槽内で3種の求愛行動を観察した。3種ともに、雄は雌よりも体長が小さく、体色の雌雄差は認められなかった。雄同士の闘争も観察されなかった。雄は、雌の前で鰭を広げて小刻みなダンス(求愛)をするか、もしくは求愛無しで交尾を試みていた。産卵基質であるホヤやカイメンを採集した結果、30卵塊を発見することができ、それらは親子判定用にエタノールに保存した。 2)次世代シークエンサーを用いて、アサヒアナハゼについてmsDNAマーカーの開発を行った。配列決定した35395座のmsDNAから、条件を絞り込んで抽出した計72座のプライマーの有効性をテストした。その結果、多型性の高い20座が親子判定に有効であることが分かった。また、アサヒアナハゼ以外の交尾・無保護種8種でも10座以上で親子判定に利用できることが明らかになった。今後は、実際に野外や水槽内で採集した卵塊の親子判定を行う。 3)交尾・無保護型5種の精子の運動性を測定した結果、5種ともに海水中では精子が不活性であるが、雌の卵巣腔液中では活発に運動していた。また、体内受精であるほ乳類の精子と似た頭部の細長い精子を持っていた。精子の遊泳速度を5種で比較した結果、アナハゼが150マイクロメートル/秒と他の4種(120マイクロ)に比べ有意に速い精子を持っていた。また、アナハゼとキリンアナハゼの精子の全長は、70マイクロメートルと他の3種(80マイクロ)よりも有意に短かった。同じ交尾・無保護種であっても精子の運動性と形態に種間差が見られ、興味深い結果と言える。今後は、性淘汰圧の種間差や系統関係を精査することによって、これらを説明することが可能かもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に「研究実績の概要」で述べた3点について自己評価を行った。 1)交尾・無保護種の交尾期である秋に佐渡島で野外調査を行った。時化のため海に入れる日が少なかったが、野外で2種の求愛行動を観察することに成功した。しかし、交尾行動までには至らなかった。野外での繁殖行動の観察は難しいと予測していたが、観察が不可能では無いことが分かったので、これまでの観察日の情報(水温、場所、水深)をもとに今後は効率の良い観察ができると考えている。また、今後は野外観察よりも水槽での交尾行動の観察を重点的に行う。 産卵期には、野外でホヤやカイメンを採集し、計30卵塊得ることができた。また、採集した成熟雌から卵塊を水槽内で多数得た。親子判定用に十分量のDNAサンプルが揃いつつある。以上のことから、野外観察と採集については、潜水日が少なかったものの、当初の予定通り概ね順調に進展したと考えている。 2)msDNAマーカーの開発については、魚類進化遺伝学の専門家との共同研究によって、次世代シークエンサーによる配列決定、候補マーカーの抽出、多型性の確認まで終了した。孵化仔魚の親子判定については、まだ着手したばかりあるが、マーカーの選定が終了しているので短期間で結果を出せる状態にある。以上のことから、msDNAマーカーの開発と親子判定についても当初の予定通り概ね順調に進展したと考えている。 3)精子の運動性測定については、精子の運動性を専門としている研究者のもとで手法を習得し、交尾・無保護種5種での計測を行った。ただし、標本数はまだ十分では無いため、今後それぞれの種の標本数を増やす必要がある。精巣構造については、組織学を専門とする共同研究者が主として行っているため、サンプルを提供し、結果を共有した。以上のことから、精巣構造の観察と精子の運動性計測についても当初の予定通り概ね順調に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、交尾・無保護種に加え、交尾・雄保護種、非交尾・雄保護種について、野外での行動観察と卵塊採集、2)親子判定、3)精子の運動性測定を行う。 1)これまでの調査により、佐渡島では交尾・雄保護種のニジカジカと非交尾・雄保護種のフタスジカジカの繁殖が確認できているため、これらの種の行動観察および採集を行う。交尾・無保護種の調査も平成24年度に引き続き実施する。また、佐渡島での野外調査に加え、本年度は北海道大学臼尻水産実験所前(函館市)でも調査を行う。臼尻水産実験所前では、交尾・雄保護種、非交尾・雄保護種ともに複数種の繁殖が確認されている。また、これらの種の繁殖生態は北海道大学のグループにより少しずつ解明されつつある。この蓄積されたデータを解析するとともに、実際に繁殖期である春に臼尻水産実験所前で潜水し、必要なデータと標本を採集する。 当初平成26年度に計画していたアラスカでの調査は、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター臼尻水産実験所の宗原弘幸准教授と共同で、本年度の3月に繰り上げて実施する。 2)交尾・無保護種については、これまでに採集した卵塊と親のDNAサンプルを用いて親子判定を行う。交尾・雄保護種については、すでに親子判定の結果が論文化されているものがあるので、そのデータを利用する。非交尾・雄保護種についてはこれまで親子判定が行われていないため、佐渡島のフタスジカジカと臼尻のウスジリカジカについて、野外で卵塊を採集し、親子判定を実施する。 3)交尾・雄保護種、非交尾・雄保護種からそれぞれ5種以上について、精巣重量と精巣構造、精子の運動性に関してデータを収集する。交尾・無保護種についても必要な種については追加で精子計測を行い、標本数を確保する。以上の研究成果は、魚類学会や生態学会で発表するとともに、研究論文として順次公表していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費:野外観察時には、目視での観察に加え、ビデオやカメラによる記録が重要なウェイトを占める。そのため、水中撮影器材として200千円計上した。 消耗品費:親子判定のためのDNA分析用試薬類(DNA抽出キット、PCR用酵素類、PCR Muliplex Kit、プラスティックチューブ類)と魚類飼育用の器材(手網、餌、孵化容器など)を計300千円、必要経費として計上した。 旅費:北海道大学への調査旅費、日本魚類学会参加費(宮崎)、インド太平洋国際魚類会議への参加費(沖縄)を国内旅費として計上した。アラスカへの旅費は、共同研究者となっている基盤研究(B)海外(代表:北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・准教授・宗原弘幸)から支出予定である。計370千円。 人件費・謝金:親子判定については、学生もしくは院生に実験補助をお願いし、仕事の効率化を図る。計60千円。 その他:潜水用タンクレンタル代、潜水ガイド料金、器材・生体運搬費用、英文校閲代として170千円計上した。 平成26年度は、消耗品費(親子判定用試薬)、旅費(学会参加費、調査費)、人件費・謝金(実験補助)、その他(潜水料金、運搬費、英文校閲代)の予定となっている。
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