研究課題/領域番号 |
24770016
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
安房田 智司 新潟大学, 自然科学系, 助教 (60569002)
|
キーワード | 海産カジカ / 性淘汰 / 精子競争 / 交尾 / 親子判定 / 系統関係 |
研究概要 |
平成25年度は、1)精子の運動性測定と形態観察、2)ホヤやカイメンに産みつけられたカジカ卵の採集、3)水槽での交尾行動の観察を行った。 1)これまで、交尾・無保護型のカジカ科魚類計5種20個体について精子特性を計測したが、平成25年度は種数と標本数を増やし、計9種39個体の精子を解析した。その結果、同じ交尾・無保護型の近縁種であっても、精子の全長が100μmを超えるような種(アヤアナハゼ)もいれば、アナハゼのように70μmに満たない種がおり、これは個体差では無く、種間差であることが統計的に証明された。同様に精子の遊泳速度も種間で大きく異なるという結果が得られている。また、平成25年度はアラスカで非交尾種の精子の観察を行ったところ、海水で運動性を持ち、等張液中では全く動かないことが分かった。これは交尾種とは全く逆の結果となり、交尾行動により精子の運動性が進化したことが示唆された。 2)野外で交尾種のカジカの雌が何雄と交尾しているのかを明らかにするため、冬から春に佐渡島や伊豆で産卵基質のホヤやカイメンを採集した。これまでホヤから90卵隗、グンタイボヤやカイメンから35卵塊を得た。これらの卵と親候補種についてmtDNAのcytb領域をシーケンスした。その結果、親候補種9種は選好する産卵基質が異なっていた。今後は、種判別した卵塊の親子判定を行い、種間の精子競争レベルの違いを明らかにする。 3)水槽内で交尾・無保護種キリンアナハゼの繁殖行動を観察した。雄は雌よりも体長が小さく、体色の雌雄差は認められなかった。雄同士の闘争は威嚇だけであり、ほぼ行わない。また、雄は求愛を行う場合もあれば、求愛無しでも交尾を試み、交尾成功に関係するのは求愛頻度では無く、交尾試行頻度であった。この結果は、性的二型の顕著な動物の結果とは異なっており、性淘汰について新しい発見があると思われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に「研究実績の概要」で述べた3点について自己評価を行った。 1)精子の運動性計測については、平成24年度に専門家のもとで手法を習得し、方法は確立できた。この手法と購入した機器を用いて、平成25年度は精子計測の種数とサンプル数を増やすことができた(平成24年度まで:計5種20個体、現在:計11種44個体)。種数やサンプル数を増やすことは平成25年度の大きな課題であったことから、精子の運動性計測については当初の予定通り概ね順調に進展したと考えている。 2)佐渡島には交尾・無保護種が9種生息する。平成25年度は、野外でのホヤやカイメンの採集を重点的に行ったところ、これまでホヤから90卵隗、グンタイボヤやカイメンから35卵塊が得られた。少なくともこれらの親種として6種が含まれていることが、遺伝子解析により推定された。親種を推定できた卵塊については、平成25年度に作成したmsDNAマーカーを用いて、親子判定実験を始めているところである。遺伝子による種判別の方法を確立できたこと、また親子判定の卵隗数が十分量揃ったことから、当初の予定通り概ね順調に進展したと考えている。なお、海産カジカ9種は、ホヤやカイメンの種類やサイズによって種ごとに使い分けているようであり、産卵管の長さも産卵場所の種特異性と関係している可能性が高く、この点についても新しい発見ができると考えている。 3)平成24年度は野外での繁殖観察に重点を置いていたが、潜水期間中に繁殖行動を観察できる頻度が低いため、平成25年度は水槽観察を中心に行った。水槽内では、求愛行動や交尾行動をビデオで記録することに成功し、アナハゼ類の繁殖行動が初めて明らかになった。しかし、交尾した雌が全て死んでしまい、親子判定用の試料を採取することができなかった。このことから今後の課題はあるものの、繁殖観察については概ね順調に進展したと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、1)親子判定、2)水槽実験、3)精子の運動性測定を行う。 1)交尾・無保護種については、野外で採集した卵塊の親種を推定後、親子判定を行い、雌が産んだ卵に関わっている雄の数を推定する。交尾・雄保護種および雌保護種については、すでに親子判定の結果報告があるので、そのデータを利用する。これまで親子判定の結果報告の無い非交尾・雄保護種のウスジリカジカについて、野外で卵塊と保護雄を採集し、親子判定を実施する。親子判定の結果から、それぞれの種にかかる精子競争の強さを定量化し、精子競争の強さと精子の運動性や形態などとの関連性を調べる。 2)平成25年度は、キリンアナハゼの繁殖行動を水槽内で観察したが、平成26度は実験デザインをさらに工夫し、交尾順番や交尾回数など、雄が繁殖に成功する要因を明らかにする。また、キリンアナハゼの体色は、顕著な雌雄差がないが、同じ交尾・無保護種には雄が派手な種もいるので、これらの種についても繁殖行動を観察する。 3)これまで交尾・無保護種に関しては、精子の運動性と形態のデータはほぼ収集できた。そのため、交尾・雄保護種、交尾・雌保護種、非交尾・雄保護種について、さらに精子特性のデータを収集する。野外調査は、上記の種が全て出現する北海道大学臼尻水産実験所前(函館市)にて行い、採集したサンプルを用いて、精子の運動性解析を行う。これらの種の繁殖生態や繁殖時期は、北海道大学、岐阜大学のグループにより少しずつ解明されつつあり、短期間の滞在でも十分データを収集できると考えている。また、同グループによりカジカ科魚類全体の分子系統樹作成も進められており、分子系統樹の結果、精子の運動性と形態、交尾の有無、親子判定の結果を用いて、系統比較解析を行い、カジカ科魚類における精子進化を解明する。以上の研究成果は、学会で発表するとともに、研究論文として順次公表していく。
|