本研究は、貝食性オサムシの頭部・胸部形態に関するモジュール機構の遺伝・発生基盤解明を主目的としている。 本年度は、シーケンスに用いるライブラリー作製を中心に作業を進めた。はじめにde novo RNAアセンブリに必要となるリファレンス配列の獲得を目的に、発生ステージが異なるサンプル個体をベースとした実験デザインのシーケンス準備に取り組んだ。具体的には、野外でサンプリングした粟島産マイマイカブリを実験室で産卵させ、11発生ステージのサンプル個体を用いて体全体のmRNAを抽出し、mRNAの断片化、cDNA化、アダプターのライゲーションを行い、シーケンス用のライブラリーとした。 次に発現解析用のシーケンス作製を目的に、粟島と佐渡島、両島のマイマイカブリを使って前蛹期と羽化時の個体のサンプルを構築した。サンプル個体からmRNAを抽出し、mRNAの断片化、cDNA化、ライゲーション化を行い発現解析用のライブラリーを作製した。同じ作業を2亜種のそれぞれ別2個体にも適用し、全3個体の繰り返しを含むライブラリーを作製した。 残念ながら研究期間年度内にこれらのシーケンス結果獲得まで進めることができなかったが、次年度初旬にシーケンス終了が見込め、早い段階で得られたシーケンスをもとにした情報解析に移ることができる。情報解析の結果から、2亜種のマイマイカブリ形態に関わる候補遺伝子をトランスクリプトームレベルで特定することが見込め、貝食性オサムシ形態分化機構のゲノムレベルでの解明へと研究を発展させることが期待できる。 一方で、狹頭型と巨頭型亜種間の中間型をもつマイマイカブリ集団を実験室内で雑種として構築し、そのような雑種中間型がカタツムリ採餌に不適応であることを海外学術誌で発表した。本結果は、なぜ貝食性オサムシでは形態的二型が生じやすいかを示す重要な結果といえる。
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