樹冠への加温処理によって、コナラの花成および堅果の成長に関連すると考えられた遺伝子の発現解析を引き続き行った。芽ではQsSOC1は花成の初期に高く発現し、QsSEP3は花成の後期に高く発現していた。加温処理に対しては、QsSEP3でのみ発現特性の変化がみられ、加温処理により発現量が高くなっていた。雌花ではQsSOC1はほとんど発現せず、QsSEP3は芽よりも高く発現していた。QsSEP3は雌花の開花から一ヶ月間に高く発現しており、加温処理区では対照区よりも発現時期が長引いていた。コナラでは開花一ヶ月間の温度が高いと雌花が中途落下しにくい傾向にあるため、加温処理によるQsSEP3発現時期は雌花の中途落下の抑制と関連している可能性がある。また、堅果が急激に成長する時期においては、堅果のサイズが大きいほどQsSEP3の発現量が高くなっていた。さらに、堅果が急激に伸長する直前の時期にQsSEP3の発現量は加温区で増加しており、QsSEP3がコナラにおいて雌花(堅果)の成長に関与していることが示唆された。以上より、加温処理によりQsSEP3の発現が増加し花芽の発達と堅果の成長を促進する可能性があると考えられた。 また、施肥処理を行い、ミズナラの繁殖器官生産量の変化について調査を行った。各シードトラップ(施肥区、対照区それぞれ20基を設置、月に1回の回収を3年間継続して行った。)における期間を通じたすべての繁殖器官の生産量を、不作年(2013年、2015年)と豊作年(2014年)とで比較したところ、施肥区においては不作年にあってもより多くの繁殖器官が生産される傾向がみられた。この傾向は主に堅果の生産量の違いによってもたらされていた。このことは窒素要求量以外の繁殖器官生産量を決定づける要因が種子生産に不適切であったとしても、その効果を窒素施肥が緩和している可能性を示唆していると考えられた。
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