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2013 年度 実施状況報告書

熱帯性カッコウにおける軍拡競争と同所的種分化:寄生雛に見られる視覚擬態の役割

研究課題

研究課題/領域番号 24770028
研究機関立教大学

研究代表者

田中 啓太  立教大学, 理学部, ポストドクトラルフェロー (30625059)

キーワード托卵 / 軍拡競争 / 共進化 / 雛擬態 / 鳥類の色覚 / 種分化
研究概要

これまでの野外調査において,ヨコジマテリカッコウの宿主であるカレドニアセンニョムシクイの孵化後しばらくの雛の,皮膚における色彩二型(白・黒)を発見した.携行型分光光度計を用い,35羽の宿主雛,3羽のカッコウ雛の皮膚から,紫外線および可視光の反射率を測定し,そのデータを元に各タイプの雛の,鳥の色覚によって知覚できる皮膚色を数学的に再構築し,各タイプ間における識別閾を推定した.その結果,カッコウの雛の皮膚色は,宿主雛の白色型の皮膚色に類似しており,宿主の仮親から排除されないための擬態として機能していることが示唆された.
観察された雛の色彩二型頻度から,皮膚色の発現メカニズムと各対立遺伝子の頻度を集団遺伝モデルによって推定した.その際,一腹雛(ブルード)数を考慮することで,遺伝子頻度が同じ両親から生まれた子の表現型頻度に与える影響を考慮し,より精度の高い推定を行うことができた.観察された表現型頻度および単型・多型ブルードの頻度は,黒色型対立遺伝子が優性発現すると想定した場合の期待値とよく合致しており,また低い遺伝子頻度で平衡状態におかれていることが示唆された.上述の結果は,初稿が完成しており,現在,共著者による校正が行われている.
理論研究として,テリカッコウ属における寄生雛の擬態が種分化を誘発するという仮説を構築するため,雛の皮膚色遺伝子の発現メカニズムに着目し,集団遺伝モデルによるシミュレーションを行った.これは,近年,さまざまな分類群において,とくに幼若期の遺伝子発現は従来のメンデル遺伝学とは合致しないメカニズムの存在が明らかになってきているためである.複数の雛の皮膚色に複数の発現メカニズムを想定すると,その発現メカニズムのタイプによって,種分化が誘発される場合と誘発されない場合が存在することが判明した.この結果は,現在,論文を執筆中である.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

宿主雛皮膚における色彩多型の発見により,研究は大きく進展したため,野外調査においては想定以上に達成されたと言える.とくに反射スペクトルを測定した宿主雛については,両型とも一定数の血液サンプルが採取できているため,遺伝子を同定できる可能性がある.現在,共同研究者がDNAの抽出およびゲノム解析を行っている.
行動実験については達成が目標に達しなかった.最も大きな障壁となったのは雛模型の精度であった.宿主の親鳥による殺傷行動を引き出すという実験の性質上,倫理的な問題を克服するためには模型雛の使用は不可欠である.模型はウレタン発泡体で作製しているが,原材料は揮発性があるため,海外への持ち出しに制約があり,また,現地では作製に必要な環境も整っていないため,実質的には国内で作製する以外方法はない.しかし,模している対象が孵化直後の雛であるため,精密に模倣するためには死体を輸入することが必要であるが,これについても現状では非常に困難である.直接的に見比べる対象が存在しえないという状況での精巧な模型の作製には成功していない.
カッコウの色彩遺伝子についても想定された達成が大きくあったとは言えない.ただし,こちらについては対象種の特性によるところが大きい.対象種であるカレドニアセンニョムシクイはカッコウ雛に対する識別精度が非常に高いため,これまでの調査で孵化したカッコウの雛が養育された例は無い.そのため,カッコウの雛の色すら不明だった.当該年度中,反射スペクトルを計測できたのは人工孵化を行ったカッコウ雛のみであり,これらについては色彩と仮親の反応との関連についての調査を優先させために血液採取は行えなかった.
テリカッコウ属の雛の色彩遺伝子の同定・比較については,オーストラリア・ニュージーランドの研究者との共同研究にこぎつけた.これについては一定の進展があったと言える.

今後の研究の推進方策

前項で述べた通り,宿主の親鳥による殺傷行動を引き出すという実験の性質上,倫理的な問題を克服するためには模型雛の使用は不可欠である.また,実験の再現性を確保するためにも模型を使用することが好ましいと言える.現時点ではまだ成功していないが,幸いにも模型作製の経験を持つ複数の研究者から協力の申し出を受けた.これまでの試行錯誤を反映させ,使用可能な模型の作製および実験を成功させる.
カッコウ雛の皮膚色データと,測定した同じ個体からの血液の採取は不可欠だが,前項でも述べた通り,カッコウ雛に対する仮親の反応の同定を優先させたためにそれが行えなかった.というのも,孵化直後の雛の血液採取は体力の低下を避けるために行わないことが望ましいが,皮膚からの反射スペクトルの測定も同様に雛の体力の低下をまねくため,同時に行うためには一定の間隔を設けないと雛が死亡する可能性が高くなる.しかし,カッコウ雛の人工孵化は孵卵器を用いて行うことが可能だが,孵化直後の雛の養育を長期間にわたって人工的に行うことは実質不可能であり,確実に生存している雛を宿主の巣に再導入するために,血液採取を見送った.雛の死体を巣の外に捨てるのは鳥類としてはありふれた行動であり,確実に生存しているカッコウ雛でないと仮親が対托卵戦略として雛を捨てたという証拠にはならないからである.しかし,今後は反射スペクトルの測定と同一個体に紐づく血液採取に焦点をシフトさせる.

次年度の研究費の使用計画

研究は計画に則って遂行したが,想定外の余剰が生じたため.恐らく,海外渡航費が当初想定したよりも安価に抑えられたためであると考えられる.
映像記録用の機材の購入に当て,予定よりも多く購入する.

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2013 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Gourmand New Caledonian crows munch rare escargots by dropping2013

    • 著者名/発表者名
      Tanaka KD, Okahisa Y, Sato NJ, Theuerkauf J, Ueda K
    • 雑誌名

      Journal of Ethology

      巻: 31 ページ: 341-344

    • DOI

      10.1007/s10164-013-0384-y

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Mutual feeding by the shining cuckoo (Chrysococcyx lucidus layardi) in New Caledonia2013

    • 著者名/発表者名
      Okahisa Y, Sato N
    • 雑誌名

      Notornis

      巻: 60 ページ: 252-254

    • 査読あり
  • [学会発表] ヒナ型フィギュアの行く末:カレドニアセンニョムシクイのヒナ識別実験

    • 著者名/発表者名
      田中 啓太,佐藤 望,岡久 雄二,Joern Theuerkauf,上田 恵介
    • 学会等名
      日本動物行動学会第32回大会
    • 発表場所
      広島大学(広島県)
  • [学会発表] 鳥たちが見ている“異次元”の色の世界:眼・いろ・心の進化

    • 著者名/発表者名
      田中 啓太
    • 学会等名
      大阪バードフェスティバル シンポジウム『色・鳥どり~鳥たちの多様な色彩の進化と芸術への浸透~』
    • 発表場所
      大阪市立自然史博物館(大阪府)
    • 招待講演
  • [学会発表] テリカッコウ雛による擬態と頻度依存選択―よりコアな進化理論の導入へ―

    • 著者名/発表者名
      田中 啓太,三上 かつら,三上 修,佐藤 望,上田 恵介,山道 真人
    • 学会等名
      日本鳥学会2013年度大会自由集会『托卵のさらなる謎に挑む:熱帯性カッコウ類の生態から浮かび上がった新たな理論展開』
    • 発表場所
      名城大学(愛知県)
  • [学会発表] エピジェネティックな擬態? テリカッコウ類による宿主雛擬態と宿主利用

    • 著者名/発表者名
      田中 啓太,三上かつら,佐藤 望,上田 恵介,山道 真人
    • 学会等名
      日本進化学会第15回つくば大会
    • 発表場所
      筑波大学(茨城県)
  • [学会発表] A colour to birds and to humans: why is it so different?

    • 著者名/発表者名
      Keita D Tanaka
    • 学会等名
      26th International Ornithological Congress, Symposium 7: To understand what birds actually see: toward a newer synthesis of visual perception and methods to study coloration
    • 発表場所
      立教大学(東京)

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公開日: 2015-05-28  

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