研究課題/領域番号 |
24770030
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
小杉 真貴子 国立極地研究所, 研究教育系, 特任研究員 (00612326)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 南極 / 微気象観測 / 光合成 / 光阻害 / 生理生態 / 環境変動 |
研究概要 |
本研究では、生理学的実験手法を用いた解析と生育環境の微気象観測から南極に生育する光合成生物の生態を明らかにすることを目指している。本研究において最も重要な生育場所の通年微気象観測を行うために2012年の11月から3月の間、第54次日本南極地域観測隊に同行し昭和基地周辺の南極大陸露岩地域において観測を行った。約一カ月の南極滞在期間の中で通年微気象観測機材の設置を無事行うことができた。また、夏期間中の光合成生物の活性測定、および生理学実験に用いるための試料採集をほぼ予定通り行う事ができた。微気象観測データは滞在期間中のものは回収し、今後は半年後と1年後に回収を行う。 本研究で対象にしている光合成生物のうち陸生シアノバクテリア、イシクラゲの生理学的特徴を解析するために細胞外多糖を細胞から効率良く除去する方法が必要と考えられたため、既存の方法を参考に少量の試料から効率良く細胞を回収できる方法を検討した。また、本研究で重要視している光阻害について解析するため、南極の昭和基地周辺の露岩地域で採集された地衣、蘚類、緑藻の乾燥時における光阻害の波長依存特性を基礎生物学研究所の大型スペクトログラフを用いて解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で最も重要であった南極での微気象観測のための機器設置作業を順調に行うことができ、夏期のデータを取得することができた。また生育環境での実際の光合成活性の測定も予定通りに行う事ができ、生理学実験に用いるための試料採集も十分に行う事ができた。今後の微気象観測データの回収は平成26年1月以降になる予定であったが、越冬期間中に一度データを回収して頂けることになったため、申請時に予定していたよりも早くシミュレーションを用いた解析に取り掛かれると考えている。 生理学実験に関しては、地衣、蘚類、緑藻の乾燥時における光阻害の波長依存特性の違いを明らかにすることができ、光阻害という生理学的性質の面から生態の違いに迫るという目的に沿って順調な結果が得られている。研究対象の一つにしていたシアノバクテリアは、冷凍保存されていた試料の活性が正常に戻らなかったため今回南極観測に同行した際に改めて採集を行った。平成24年度は日本に生育している同種のシアノバクテリアを用いて細胞外多糖の除去法を検討し、次年度の生理学的解析に向けた準備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1. 環境因子に対する光阻害の測定: 南極で取得した夏期間の微気象観測データの解析に着手する。生育環境のデータを参考に実験に用いる光強度、温度の幅を設定し、環境因子に対する光阻害の影響を研究対象の試料(南極の陸上に生育する蘚類、地衣、緑藻、シアノバクテリア)で測定する。光阻害は、PAMクロロフィル蛍光測定装置による光照射後の暗所での蛍光量子収率(PS IIの活性を示す)の回復率と、ウエスタンブロッドを用いた免疫染色法によるPS II反応中心タンパク質の減少を測定することで比較する。 2. 生育環境下での生態シミュレーション 生理学実験で測定した環境因子に対する光合成生物の活性と光阻害の程度を考慮した生態シミュレーションを夏期間の微気象観測データを用いて行う。実際に生育環境で測定した環境因子と光合成活性の値を参考にしながら、シミュレーションに用いる因子の時間変化速度やバランスを調整していく。そして夏期間で確立した計算法を用いて今後得られる冬期、春期の微気象観測データからシミュレーションを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な購入物品は、ウエスタンブロッドを行うための機材と抗体等の試薬である。平成24年度からの繰越金は、南極での野外観測に用いた温湿度計測ロガーの校正費に使用する。 旅費は主に、分析を依頼している研究機関への出張費と学会に参加する際に使用する予定である。
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