研究課題/領域番号 |
24770030
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
小杉 真貴子 国立極地研究所, 研究教育系, 特任研究員 (00612326)
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キーワード | 環境変動 / 南極 / 光合成 / 微気象観測 / 光阻害 |
研究概要 |
平成24年度に南極のラングホブデ、雪鳥沢に設置した光合成生物の生育微気象観測装置のデータ取得を越冬隊および第55次日本南極地域観測隊の協力の元行い、平成26年1月に目標としていた1年間分のデータ取得を完了した。観測機器は引き続き同場所に設置し、データ取得を行うこととした。一部のセンサーに障害が見られた期間があったが、データは概ね良好に取得できており、現在データの解析を進めている。これまでの解析から、緑藻類、地衣類、蘚類のそれぞれの活動可能な期間がおおよそ推測でき、地衣類は他の2生物に比べて夏の早い時期から活発な活動期間を迎えることが予測された。観測地点に設置した定点カメラも問題無く作動し1時間ごとの積雪の様子を取得できたことで、微気象データ解析の際に大きな助けとなっている。 生理学的解析では、基礎生物学研究所の大型スペクトログラフを用いて南極の陸生光合成生物の光阻害の波長依存特性を明らかにした。その結果と生育微気象環境データを併せて解析することで、光阻害の波長依存特性の違いがそれぞれの生物の南極の生育環境を決定する因子の一つになっていることが示唆された。生理学的実験から、緑藻のP. crispaは光障害の影響を受けやすく地衣類や蘚類はそれに比べて強光や紫外線に対して優れた耐性を持つことが分かった。 本研究では野外の生育微気象環境データから光合成生物の生態をシミュレーションするため、光阻害の影響をモデルに組み込むこむ方法を検討していた。上記の実験において光阻害の影響は、各波長で光の照射エネルギーに対して一次反応式で示された。その式を用いて、野外で変化する太陽光の波長成分に対する光阻害の影響を予測することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究での大きな柱の一つであった生育環境の通年微気象観測は成功したと言える。もう一つの柱である生理学的解析は、これまでにタンパク質合成阻害剤を用いて光阻害が起こる過程についての測定を行った。光阻害は進行の速度と回復速度のバランスで進行速度が決定されるため回復系の活性測定を行う必要があるが、まだ測定が終了していない状態である。また、これまでの光合成活性の測定はPAMクロロフィル蛍光測定法を用いてきたが、光合成の純生産量を求めるために炭酸固定量と呼吸量の測定が終了していない状態である。この測定にはクロロフィル蛍光測定に比べて多量の試料が必要であり、希少な南極の試料でどのように測定を進めるか検討を行っていた。クロロフィル蛍光の測定結果と併せることで最小限の測定を行うこととし、早急に実験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象とした生物のうち光阻害を起こしやすいことが分かった緑藻のP. crispaで、生育環境下での光障害の程度と光障害が及ぼす生育範囲への影響についてモデルの構築と、野外データを用いてのシミュレーションを試みる。モデルの構築に際して、既に得られている阻害過程の数式モデルに回復過程の影響を組み込むため、生理学実験により温度と光強度に対する光障害からの回復速度を測定する。回復速度は主にPS II反応中心の量子収率の回復から求めるが、非光化学的消光(NPQ)による量子収率の低下を差し引くためにタンパク質合成阻害剤で処理した場合としない場合の差を求める。 地衣類と蘚類に関してはタンパク質合成阻害剤処理下においても光阻害はほぼ見られなかったため、本研究課題では光障害の影響を考えず温度と光強度に対する光合成速度と呼吸速度の測定から生育環境下での活動期間と光合成の純生産量を推定する。 以上の結果から緑藻、地衣、蘚類の生理学的特性の違いと生育環境、活動期間や活動様式の違いを明らかにし、環境変動による生育微気象環境の変化が与える生態への影響をそれぞれ予測する。
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