本研究は、連続観測が難しい南極に生育する光合成生物の生態を、生理学的な実験手法と生育環境での通年微気象観測により明らかにし、環境変動がもたらす極域生物への影響をモニタリングするための基盤を作ることを目的とした。1年目に東南極地域のラングホブデにある第154南極特別保護地区内の光合成生物生育環境に通年微気象観測装置を設置し、2年目に1年間分のデータ回収を行った。最終年度にその取得データの解析を行い、所属機関発行のデータレポートとして報告した。現在も引き続き観測が行われている。 生理学的実験手法を用いた解析は、南極の露岩に生育する地衣類(Umbilicaria decussata)、蘚類(Ceratodon purpureus)、緑藻(Prasiola crispa)を研究対象とし、光障害の波長依存特性の違いを明らかにするとともに、環境データを用いたシミュレーションを行うために、過去の文献を参考に各波長域において照射エネルギーに対する光障害を数式化した。最終年度においては野外の観測データと生理学実験データを併せた解析を行い、生育地が近接しているにも関わらず上記3生物の南極での活動時期が大きく異なっている可能性と、光障害の波長依存性の違いが極域での光合成生物の生態学的な振る舞いに大きく影響を与えている可能性を明らかにした。年度内に完成に至らなかったが、上記の結果を元に論文執筆を進めている。 今後も3生物の生育微気象環境のモニタリングデータの蓄積と環境変動の観測が期待され、研究目的としていた環境変動が各生物に与える影響を解析していくための基盤を築くことができた。
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