研究課題/領域番号 |
24770036
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山口 夕 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60335487)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 内生ペプチドエリシター / シロイヌナズナ / 防御応答 |
研究概要 |
AtPep1およびAtPep1とFLAGタグの融合タンパク質を過剰に発現させたシロイヌナズナとタバコBY2細胞を作製し、遺伝子の導入とmRNAの蓄積をPCRおよびRT-PCRにより確認した。その結果、すべての組み合わせの形質転換体を複数系統ずつ得ることができた。これらの形質転換植物の粗抽出液を抗AtPep1抗体と抗FLAG抗体を用いたウェスタンブロッティングに供したところ、分子量約15 kDと2.5 kDのタンパク質が形質転換体特異的に検出され、それぞれ前駆タンパク質とペプチドであると考えられた。このことから、抗AtPep1抗体と抗FLAG抗体が利用可能であることが分かった。抗AtPep1抗体と抗FLAG抗体を比べると、抗FLAG抗体の検出感度が高かった。また、ポジティブコントロールとして作製した組換えAtproPep1とAtproPep1::FLAGタンパク質を、シロイヌナズナの培養細胞に与えたところ、どちらも培地のアルカリ化を引き起こしたので、AtproPep1::FLAGタンパク質もAtproPepの機能を保持していることが分かった。現在、検出された前駆タンパク質とペプチドの配列を確認するために、数段階の精製とその後の質量分析(MALDI-TOF/MS/MS)を試みている。アポプラストのタンパク質とペプチドの抽出方法についても検討中である。 また、小さいペプチドの量の変動がみられるかどうか調べるために、さまざまなストレスを与えた。形質転換シロイヌナズナでは塩ストレスに対する耐性が大きく向上していることが分かった。さらに、塩ストレス条件下でのストレス応答遺伝子の発現パターンが、野生型シロイヌナズナと比較して顕著にことなることが明らかとなった。このため、塩ストレスを与えた時にペプチド量が変動している可能性が高いと考え、現在解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
24年度で計画した形質転換植物作成とウェスタンブロッティングによる前駆タンパク質と成熟ペプチドの検出は成功している。しかし、質量分析による確認と定量的な解析にはいたっておらず、現在簡易精製法とアポプラスト溶液回収方法の検討を行っている。従って、24年度の計画に関しては遅れていることになる。 一方で、ウェスタンブロッティングによる検出が可能であることから、当初25年度に予定していたさまざまなストレス条件を与える実験をしたところ、新たにAtproPep1とAtproPep1::FLAGを過剰に発現したシロイヌナズナが塩ストレスに対して強くなっていることが見出された。さらに塩ストレス条件下で育てた形質転換シロイヌナズナでは、野生型シロイヌナズナと比べて一部の塩ストレス応答遺伝子の発現誘導が抑制されていることが分かった。 以上のように、24年度の計画を完全に達成することはできなかったが、一部25年度の実験も実施できていること、AtPepの新たな効果を明らかにできたことから、現在までの達成度をやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の結果を受けて、平成25年度は以下の2つの計画を同時並行で進め、最終的に1で得られた結果を2により補完することを目指す。 1.ストレス処理によるペプチド量の変動について(研究協力者:道満剛平(大学院生)) 24年度に引き続き、環境ストレスによってペプチド含量が変動するかどうかを、ウェスタンブロッティングを用いて調べる。ペプチド量の変動が見られた場合には、同じ条件下での細胞死の有無を観察し、ペプチド量と細胞死に相関があるかどうか調べる。細胞死が確認されなかった場合は、動物細胞で使われているリーダーレス分泌機構の阻害剤の影響についても検討する。現在のところ塩ストレスに対する耐性が形質転換シロイヌナズナで向上していることから、まずは塩ストレスに注目する。さらに、AtPep1による耐塩性の獲得機構についても、定量的RT-PCRおよび植物ホルモン定量解析を中心に明らかにしていく。 2.前駆タンパク質とペプチドの定量解析(研究代表者:山口夕) ウェスタンブロッティングで確認された大小のタンパク質が、本当に前駆タンパク質と成熟ペプチドであるのかどうか確認する必要がある。24年度で試みた簡易精製方法(フェノール抽出とアセトン沈殿)では、質量分析装置(MALDI-TOF/MS)から結果が得られなかったので、抗FLAG抗体によるアフィニティカラムあるいは疎水性・ゲルろ過・イオン交換カラムを利用した方法により精製・濃縮を行い、質量分析を行う。その上で、簡易抽出法並びにアポプラストからのペプチド抽出法の確立と、質量分析装置による定量解析を目指す。24年度に用いた質量分析装置は古いタイプで感度も低いため、全国共同利用機器などを活用して、より感度の高い質量分析装置を利用する。解析条件が決定でき次第、1で見つけたストレス条件下でのペプチドの定量解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
<設備備品類>4月1日より、所属機関を変更し、研究室を一からセットアップすることになった。そのため、研究に必要な備品(冷凍庫・冷蔵庫・遠心機・電気泳動機器)を購入する必要がある。そこで、24年度未使用分の80万円と人件費(実験補助員)の50万円を主に備品の購入に当てたい。24年度未使用分の80万円は、適切な実験補助員が見つからなかったこと、当初の予定より研究がやや遅れたことにより生じた。 <旅費>研究協力者(大学院生)は前所属先(北海道大学)に所属しているので、研究の相談と情報交換のために札幌へ2回ほど出張し、これとは別に学会へも参加する。従って旅費として20万円程度を予定している。 <消耗品費>実験器具(プラスチック製およびガラス製の容器やシャーレ、試験管など)、核酸検出試薬(核酸抽出からリアルタイムPCRによる遺伝子発現解析など)、タンパク質関連試薬(ウェスタンブロッティングやペプチド精製用のカラムなど)。 <その他>質量分析装置は共同利用機器を使用する予定であるので、その使用料が必要である。
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