AtPepsは、病害抵抗性反応を引き起こす内生因子として発見されたペプチドエリシターである。細胞膜上に存在する受容体の存在から、病原菌感染を受けた細胞からアポプラストに放出され、細胞外から働きかけると考えられている。しかし、生きた細胞が能動的にAtPepsを放出しているのか、死んだ細胞からもれ出ているのかは明らかにされていなかった。そこで、AtPep1の前駆体タンパク質AtproPep1を過剰に発現させたシロイヌナズナを作製し、細胞死を伴わないかつAtPep1が機能する条件を探索した。その過程で、AtproPep1過剰発現体では、NaClに対する耐性が向上していることが分かった。 平成26年度では、シロイヌナズナを水耕あるいは液体培地で栽培し、NaCl処理による影響をさらに詳しく調べた。AtPep1の受容体であるAtPEPR1およびAtPEPR2とGUSレポーターの融合遺伝子を導入したシロイヌナズナを用いて調べところ、主に維管束で発現しており、AtPep1が維管束で働いていることを確認した。また、根においてはその発現量が中心柱全体に広がることが分かった。さらにNaCl処理によってどの程度の細胞死が起こっているかをエバンスブルー染色により調べたところ、実験に用いた濃度では顕著な細胞死は認められなかった。 以上の結果に加えて、ストレスのない条件でも一定のAtPep1の効果がこれまでにも見られていること、NaCl処理下でも抑制はされるものの生長が継続されることを合わせると、AtPep1は生きた細胞から能動的に放出されていると考えられる。
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