研究課題
定量化のターゲットとする画像の種類を2次元画像から多次元画像,具体的には時系列画像・動画像ならびに多重蛍光標識画像(マルチバンド画像)へと拡張し,植物の器官・組織・細胞に対するイメージング解析法の開発を行なった.シロイヌナズナの葉と根の表皮組織等を対象として各種細胞内構造の撮影および収集を続け,既に取得済の植物培養細胞画像とあわせて,画像リソースとして拡充した.その撮影法は共焦点顕微鏡や全反射顕微鏡を含む蛍光顕微鏡法を中心とし,それに加えて本年度からデジタルマイクロスコープによる明視野画像および透過型電子顕微鏡画像にも対象を広げた.なお蛍光画像および明視野画像に関しては連続撮影によって得られる時系列画像や動画像からの動態解析法の開発に重点を置いた.また複数の蛍光プローブを用いて撮影されたマルチバンド画像を対象としてタンパク質の共局在解析についての取り組みを開始した.時系列画像・動画像の解析に関しては,オルガネラや細胞骨格などの細胞内構造の動きや植物器官・組織の成長について速度測定を行なうために,オプティカルフロー法に基く手法の開発を行なった.また花粉管や根のような伸長成長する対象に対しては,その表面の模様や形状が部位によって異なることを利用して画像内の各所にマーカーを設定し,時間経過にともなうマーカー位置の変位を画像内探索によって求める手法を用い,オプティカルフロー法の適用が困難な画像条件でも安定した測定を可能とした.その適用例として,細胞の増殖と成長の協調によって成し遂げられている根の伸長過程について,塩ストレスによる影響を定量的に明らかにした.共局在解析に関しては,緑色および赤色蛍光タンパク質によって二重標識された植物細胞の時系列画像を対象に,バンド間での相関係数を指標として膜輸送阻害剤に対するタンパク質の共局在性の変化を計測することが可能となった.
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究計画の内,時系列画像の収集についてはデジタルマイクロスコープを用いたシロイヌナズナの根の伸長測定の撮影システムを導入することによって蛍光像だけでなく明視野像にも解析範囲を広げることができた.また,共同研究者をはじめ国内外の複数の植物研究グループからマルチバンド画像および動画像のデータ供与を受けることにより,撮影系の違いに対して堅牢なアルゴリズムの検討が可能となった.時系列画像・動画像からの速度測定のうちオプティカルフロー法については,電荷増倍式のカメラを用いて得られた高速撮影データなどシグナル-ノイズ比が芳しくない状況で起こる速度ベクトルの誤検出が問題となっていたが,これに対して細胞内構造の一定時間内における等速運動を仮定し,3フレーム以上にわたる画像データから1つの画像相関スペクトルへの集約を行なうことにより安定性を向上する方法を確立した.また根や茎のような互いに相似的な細胞が積み重なって形成されている器官では,これらの表面の模様(テクスチャ)が反復的・自己相似的なパターンをとっていることが伸長解析の自動化を阻んできた.これに対して本研究では高速な画像内領域のクラスタリング手法を活用して,異なる時間フレーム間での領域探索と同時に,同一時間フレーム内での類似領域探索を行なうことで対応した.それにより根の伸長測定において手動でのマーカーの設定の必要性をほぼ解消することができた.
平成26年度の研究の推進にあたっては,当初の計画通りマルチバンド画像からの共局在解析に注力する.タンパク質や細胞内構造の共局在解析に関してはピアソンの積率相関係数を用いた共局在指標が現在広く用いられているが,解析領域の設定方法,ノイズやアーティファクトによる影響への対策など課題が多く残る.とくに植物細胞では細胞内体積の大半を液胞が占めるため,液胞以外に分布するタンパク質の共局在解析が動物細胞に比べて難しい.この問題に対して,解析領域の自動的な決定を含む前処理工程の開発を行なう.また,多くの共局在解析ではそのターゲットがドット状であることに着目して,あらかじめ解析対象であるタンパク質あるいは細胞内構造の分布を輝度のピーク位置の推定によって求め,空間幾何学的手法によって互いの局在性を判断するアプローチについて,検討を進める.近年, STED や PALM に代表されるバイオイメージングにおける超解像技術の発達により,従来の wide-field 蛍光顕微鏡あるいは共焦点顕微鏡に比べて,より高い精度で標的タンパク質の位置決定が可能となるとともに,輝度分布が必ずしも対象分子の濃度を反映しなくなってきた.そのため輝度分布に基づくのではなく,対象分子の位置を既知とした局在解析の手法は今後その必要性を増すものと考えられる.
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