研究課題
これまでに、シロイヌナズナの2種類のセリンアルギニンリッチ(SR)タンパク質、atSR45aとatSR30が転写因子を含む多様な遺伝子の強光下での選択的スプライシング効率制御に機能することを示してきた。本研究では、環境ストレス応答性選択的スプライシングを介した遺伝子発現制御ネットワークを明らかにすることを目的として、以下の研究を行った。1.atSR45aおよびatSR30による転写因子の選択的スプライシング制御機構およびその生理的意義強光ストレス条件下でatSR30により選択的スプライシング効率が制御される遺伝子産物の解析を行った。その結果、種々の環境ストレス対する耐性能の向上に寄与することが報告されているNAC transcription factor (NAC:AT1G52890)から強光下で生成する高分子の選択的スプライシング産物は、一部のイントロンの保持による終止コドンの出現により、C末端側が欠損したタンパク質をコードしていることが明らかになった。したがって、atSR30は強光ストレス条件下でイントロンリテンション型選択的スプラシングのエンハンサーとして、強光ストレス下でのNACの機能変化型産物の生成促進に働いていると考えられた。2.atSR45aおよびatSR30の細胞内局在性の制御機構atSR45aおよびatSR30の各ドメインが細胞内局在性に果たす役割を明らかにするために、パーティクルガンにより全長および各ドメインを欠損したatSR45aとRFPとの融合タンパク質をタマネギ表皮細胞に一過的に発現させ、蛍光シグナルの分布を観察した。その結果、スプライシングの場である核スペックルへの局在化には、atSR30では他の既報のSRタンパク質と同様に、C末端側のRSドメインが機能しており、atSR45aではN末端側およびC末端RSドメインの両方を必要とすることが示された。
2: おおむね順調に進展している
atSR45aおよびatSR30による転写因子の選択的スプライシング制御機構およびその生理的意義に関しては、選択的スプライシング産物の機能解析と並行して、当該遺伝子の遺伝子破壊株の入手/確立を行なっている。さらに、それらの相互作用因子や新規の環境ストレス応答性スプライシング制御因子の同定も行なっている。atSR45aおよびatSR30の細胞内局在性の制御機構に関しては、核内局在に必要な機能ドメインの同定に成功した。これらの成果は、ほぼ当初の計画通りであり、事実、本研究により得られた成果により多数の学会発表を行い、複数の査読付き雑誌に掲載されている。
これまでの研究により、当初の計画通りatSR45aとatSR30の細胞内局在性の制御機構や、atSR45aとatSR30により選択的スプライシング効率が制御される遺伝子の生理的役割の解析が進んでいる。さらに、残り1年間での研究に向けた実験材料(遺伝子破壊株の単離、相互作用因子の同定、実験手法の確立など)の準備も進んでいる。また、環境ストレス応答性選択的スプライシングを介した遺伝子発現制御ネットワークの全容解明に向けて、動物において同定された新規選択的スプライシング制御因子のシロイヌナズナ相同遺伝子の機能解析も進めている。したがって、今後も当初の計画に従って研究を進めていくことで、全容解明に向けた研究の進捗が期待できると確信している。
平成24年度に行ったatSR45aおよびatSR30の細胞内局在性の制御機構に関して、計画よりも順調に実験が進捗したため余剰金が発生した。そこで、環境ストレス応答性選択的スプライシングを介した遺伝子発現制御ネットワークの全容解明に向けて、動物において同定された新規選択的スプライシング制御因子、hnRNPA1、NOVAおよびFOX1の、シロイヌナズナの相同遺伝子(hnRNPA1-1~6)、(NOVA1)および(FOX1-1~3)の種々のストレスに対する発現応答性の解析、およびそれらのT-DNA挿入遺伝子破壊株の環境ストレス耐性能の評価のための消耗品費用として、平成24年度の余剰金を使用する予定である。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (6件)
ビタミン
巻: 87 ページ: 1-12
http://mol.medicalonline.jp/library/journal/download?GoodsID=cr9vitam/2013/008701/001&name=0001-0012j&UserID=163.51.106.144
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 76 ページ: 120523-120526
10.1271/bbb.120523
巻: 76 ページ: 120425-120431
10.1271/bbb.120425
Plant and Cell Physiology
巻: 53 ページ: 1596-1606
10.1093/pcp/pcs100
巻: 53 ページ: 1106-1116
10.1093/pcp/pcs054
Biochimica et Biophysica Acta
巻: 1820 ページ: 1901-1907
10.1016/j.bbagen.2010.08.003
Journal of Biological Chemistry
巻: 287 ページ: 11717-11729
10.1074/jbc.M111.292847