研究課題
若手研究(B)
北米の湖畔に生育する植物ニューベキアは、生育環境に応じて葉の形態を大きく変化させる特徴(表現型可塑性)を持つ。本年度は、下記1~3の具体的な研究項目(目的)のそれぞれについて、以下のような実績をあげた。1. ニューベキアの葉の形態の表現型可塑性の発生学的基盤の解明: これまでの行った発生学的な観察から、ニューベキアは、複葉と単葉を生育環境に応答して作り分けていることが示唆されていた。そこで、in situハイブリダイゼーションおよびQRT-PCRにより、複葉の発生に関係していることが知られているKNOX遺伝子やCUC遺伝子の時空間遺伝子発現解析を行った。その結果,生育環境に応答して、これらの遺伝子の発現パターンやレベルが大きく変化しており、単葉と複葉発生のメカニズムが遺伝子発現レベルで切り替わっていることが明らかとなった。2. トランスクリプトーム解析による表現型可塑性に重要な遺伝子の同定と機能解析: トランスクリプトーム解析を行うため、様々な条件で生育したニューベキアのシュートからmRNAを単離し、illumina用のライブラリーを合計48種作成した。共同研究先で、シークエンスに近日供する予定である。3. 重イオンビーム照射による突然変異体の単離と解析: 重イオンビームを照射し、ニューベキアの突然変異体の単離を試みている。照射条件を検討し、15もしくは20Gyの照射が最適であることを見いだした。この条件で、ニューベキアに重イオンビームを照射し,現在、フェノタイプを確認している。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、ニューベキアという生育環境に応答して葉形を変化させる植物を用いて、葉の形態の表現型可塑性の分子基盤を明らかにすることを目的としている。この目的を達成するために、前述の1~3の項目の研究を進めている。1. の「ニューベキアの葉の形態の表現型可塑性の発生学的基盤の解明」については、当初、2年程度かけて実施を予定していた実験を、ほぼすべて昨年度中に終了することができた。また、2. の「トランスクリプトーム解析による表現型可塑性に重要な遺伝子の同定と機能解析」についても、プレリミナリーな発現解析は終了し、現在さらに大規模な発現解析を進めている。大規模発現解析用の次世代シークエンス用のライブラリーの作成は終了しており、順調に進んでいる。3. の「重イオンビーム照射による突然変異体の単離と解析」については、照射条件の検討などが終了し、現在、突然変異体を選抜中である。以上のことから、研究は計画通りに進捗しており、おおむね順調に進展しているといえる。
これまでの研究で,ニューベキアの示す葉形変化の発生学的基盤はほぼ明らかにできたといえる。今後は、分子基盤の解明、つまり環境変化に応答した葉形変化(表現型可塑性)の発現に重要な遺伝子の同定を目指す。研究項目(2)のトランスクリプトーム解析については、現在大規模な発現解析を行っている。プレリミナリーな解析結果からは、植物ホルモン応答性の遺伝子などが同定されており、今後さらに詳しい解析を進めて行く。研究項目(3)の突然変異体の単離については、さらに大規模な重イオンビーム照射を行うとともに、葉形変化に異常がある変異体のスクリーニングを進める。変異体を単離することができたら、発生学的な解析により、葉形変化の異常の原因を探ると同時に、原因遺伝子の単離の準備を進める。
該当なし
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 1件)
Theoretical and Applied Genetics
巻: 126 ページ: 601-609
10.1007/s00122-012-2004-6
生物の科学 遺伝
巻: 67 ページ: 50-56
Frontiers in Plant Genetics and Genomics
巻: 3 ページ: 1-10
10.3389/fpls.2012.00202
The Plant Cell
巻: 24 ページ: 3153-3166
10.​1105/​tpc.​112.​099994
Current Biology
巻: 22 ページ: 1468-1476
10.1016/j.cub.2012.06.050
Plant Morphology
巻: 24 ページ: 57-63