北米の湖畔に生育する植物ニューベキアは、生育環境に応じて葉の形態を大きく変化させる特徴(表現型可塑性)を持つ。本年度は、下記(1)~(3)の具体的な研究項目(目的)のそれぞれについて、以下のような実績をあげた。
(1) ニューベキアの葉の形態の表現型可塑性の発生学的基盤の解明: 昨年度までの研究で植物ホルモンのジベレリンが表現型可塑性の発現に重要であることを明らかにしてきたが、下記(2)のmRNA-seqの解析によって、当初は注目していなかった植物ホルモンのエチレンが異形葉性に関与していることを示唆する結果を得た。そこで、エチレンの前駆体や作用阻害剤を用いて、陸生条件におけるエチレンと葉形との関連を調べた。その結果、エチレンはR. aquaticaの葉身展開を抑制することが明らかとなった。 (2) トランスクリプトーム解析による表現型可塑性に重要な遺伝子の同定と機能解析: 表現型可塑性に関わる遺伝子あるいは遺伝子制御ネットワーク(GRN)を明らかにするために、mRNA-seqを行ないデータ解析を行った。その結果、葉の葉身展開に関わることが知られているGASA14遺伝子の発現が有意に変動していることを見出した。昨年度までの研究で、ジベレリンが生育温度の変化によって誘導される表現型可塑性に関わることが明らかになっていたが、GASA14はジベレリンの下流ではたらくことが知られている。このことから、R. aquaticaのジベレリンが関与する異形葉性GRNの構成因子のひとつを同定することができたと考えている。 (3) 重イオンビーム照射による突然変異体の単離と解析: 重イオンビーム照射により葉の形態の表現型可塑性に異常のある変異体の単離を試みたが、残念ながら葉の形態に異常があるものを見つけることができなかった。
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