研究課題/領域番号 |
24770055
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 康一 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (40587945)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 葉緑体 / 光合成 / サイトカイニン / 分化 / シロイヌナズナ |
研究概要 |
ほとんどの植物はソース器官で行われる光合成に依存して生きているが、草食生物や生育環境の激変などによりソース器官の喪失が常に起こりうる。本研究の目的は、ソース器官喪失に応答した非光合成組織における葉緑体発達機構とその生理的意義を明らかにし、植物の器官分化と協調した葉緑体分化制御モデルを分子レベルで構築することにある。 シロイヌナズナを用いたこれまでの解析により、当研究者は地上部を切除した根で葉緑体の発達が促進されることを明らかにしている。そこで、その葉緑体の発達誘導がどのような情報伝達経路によって行われるのかを詳細に調べた。その結果、葉緑体発達に関わる写因子CGA1の遺伝子発現が、切除根の緑化時に大幅に上昇することを明らかにした。一方、サイトカイニンの情報伝達因子であるARR1とARR12の二重変異体では、切除根におけるCGA1遺伝子の発現上昇がほとんど起こらなかった。さらに、CGA1とそのホモログであるGNCの二重変異体では切除根の緑化が抑制されることを突き止めた。切除根ではサイトカイニンシグナルが増加することから、CGA1は根の切除時にサイトカイニンの下流で葉緑体発達に関わっていることが明らかになった。この結果は、ARR1とARR12の二重変異体で切除根の緑化が抑制されるという当研究者による先行結果とよく一致する。 さらに、非光合成組織の葉緑体の状態を明らかにするため、根における光合成活性を調べたところ、通常根では光合成活性が低く抑えられていることが分かった。しかし、地上部を失った根ではその抑制が解除され、葉に近い活性を示すことを見出した。一方で、ARR1とARR12の二重変異体では、切除根におけるそのような光合成活性の増加は見られなかった。これらの結果から、地上部喪失により活性化されたサイトカイニンシグナリングは、根の葉緑体の質的な変化も引き起こすことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主要課題の一つである、葉緑体分化制御機構におけるサイトカイニンシグナルの下流因子の解明においては、GATA型転写因子CGA1の関与を明らかにしたことで、大いに研究を進展させることができた。特に、CGA1がサイトカイニン情報伝達因子であるARR1、ARR12の下流で根での葉緑体発達に関わることを突き止めたことは、大きな成果である。さらに、これらの情報伝達経路が、葉緑体や光合成反応系の増加だけでなく、質的な良化も引き起こすことを発見したのは、予想外の成果であった。一方で、葉緑体分化制御機構におけるサイトカイニンシグナルの上流因子の解明においては、未解明な点を多く残している。また、ソース器官喪失による根の緑化機構の生理学的意義の解明についても、根の分化能の高いタンポポを用いた解析から興味深い予備的データが取れているが、まだ本格的な解明には至っていない。そこで、今年度の成果を上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、葉緑体分化制御機構におけるサイトカイニンシグナルの下流因子の解明において、大きく研究を進展させることができた。そこで、次年度は、その下流分子機構のさらなる解析に加え、葉緑体分化制御機構におけるサイトカイニンシグナルの上流因子の解明に挑む。具体的には、傷害ストレスによるサイトカイニンシグナルの活性化にWIND1という転写因子が関与することが報告されているので、WIND1の一過的発現が根の葉緑体分化に与える影響を解析する。特に、サイトカイニンシグナルは、根の葉緑体の質的変化を引き起こすことが今年度の研究から明らかになったので、そこにWIND1からのシグナルがどのように関わっているのかを、光合成活性の評価や光合成タンパク質複合体の解析により明らかにする。また、葉緑体の質的変化がどのような分子メカニズムによって引き起こされているのかを、RNA sequence解析などを用いたトランスクリプトーム解析により解明する。また、ソース器官喪失における根での葉緑体発達機構の生理的意義を明らかにするため、分化能の高いタンポポの根を材料に、根の光合成が地上部の再分化に果たす役割を解析する。具体的には、タンポポの根における光合成活性を調べ、それが地上部の切除によってどのように変化するのかを明らかにする。さらに、その時に、光合成電子伝達反応の阻害剤であるDCMU等を作用させたときに、地上部の再分化にどのような影響を与えるのかを解析し、その生理的意義を突き止める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は葉緑体分化制御機構におけるサイトカイニンシグナルの下流因子の解明を重点的に行った。そこで次年度では、本年度に実行できなかったサイトカイニンシグナルの上流因子の解明に、次年度に繰り越した研究費を使用する予定である。具体的には、タンパク質分析や核酸分析、レポーターアッセイを行い、上流因子であるWIND1の働きを改変したの形質転換体における葉緑体機能の解析を行う。
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