本研究はショウジョウバエ雄における求愛行動発現の中枢制御機構の一端を明らかにする事を目的とし、以下の成果を得た。 1. 光遺伝学を用いた、行動中の個体における神経活動操作手法の開発(平成24年度):トレッドミル上においた個体の脳内の神経細胞を光刺激するための装置および手法を開発した。これにより改変型Channelrhodopsin(ChR)を導入した特定の神経細胞群の活動を非侵襲かつ高い時間分解能で、行動を妨げずに操作出来るようになった。 2. 求愛行動惹起に関わる介在ニューロン群の同定(平成24、25年度):改変型ChRにより性決定遺伝子doublesex(dsx)を発現するニューロン群を活性化した雄に対し、水平方向に反復移動する視覚パターンを呈示することで求愛行動を惹起できる事を見出した。dsx発現ニューロンの光刺激または視覚刺激のどちらか一方では求愛行動は生じなかったため、dsx発現ニューロンの活性化により視覚刺激に対する雄の行動応答性が変化し、求愛行動が生じたと考えられた。MARCM法により作成したモザイク個体を用いた解析の結果、pC1ニューロン群など複数のdsx発現ニューロンサブクラスタが求愛行動惹起に関わるニューロン群として同定された。 3. 求愛行動と相関する中枢神経活動のin vivo計測(平成25年度):カルシウムセンサーGCaMP3.0を用いた機能イメージングにより、in vivoでdsx発現ニューロンの活動計測を行った。dsx発現ニューロンの活動の計測下で求愛行動を惹起し、求愛行動に随伴して生じるカルシウム応答の記録に成功した。MARCM法を用いたモザイク解析の結果、pC1ニューロン群が求愛行動と同期した一過性のカルシウム応答を生じる事を見出し、求愛行動と相関した中枢神経活動をショウジョウバエで初めて示した。
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