研究課題/領域番号 |
24770069
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中野 裕昭 筑波大学, 生命環境系, 助教 (70586403)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 平板動物 / 発生 / 有性生殖 / 繁殖期 / 卵割 / 胚 / 進化 / 後生動物 |
研究概要 |
平板動物は直径1mm前後の円盤状の海産動物である。背側の細胞、腹側の細胞、及びその間の間充織様細胞の3層、5種、数千個の細胞で構成される非常に単純な体制をもつ。器官や組織を欠き、神経細胞や筋肉細胞ももたない。背腹の区別はあるものの、前後軸や左右軸はなく、現生の中で最も祖先的な形質を残す動物の一つとされる。しかし、未だにその精子や卵割期以降の発生の報告はなく、実験室飼育系統以外の研究が進んでいない動物である。 今年度は所属機関である筑波大学下田臨海実験センターで定期的に平板動物の採集を行い、採集個体数、及び採集個体のサイズを測定した。また、その際に一匹一匹を実体顕微鏡下で観察し、卵や胚の有無やその個数を確認した。そして、採集した個体を実験室内で飼育し、飼育下で卵が成熟してくるかの確認も行った。これらの情報から繁殖期が推定できた。平板動物の野生集団の繁殖時期の報告はなく、世界初である。また、少数ながら卵や卵割胚の固定もできた。 下田で採集した1匹由来の実験室飼育系統の確立も進めている。採集から1年以上経った現在でも、実験室内で約200匹の集団が安定して飼育できている。 平板動物はその単純な体制から種の判別が困難で、現在科学的に記載されている種は平板動物門全体でTrichoplax adhaerens(センモウヒラムシ)1種のみである。最近の分子系統解析や電子顕微鏡を用いた形態学的観察からは複数のグループが門内に存在することが明らかになったが、それらのグループが別属、別種、亜種、何に相当するか結論は出ていない。今年度の下田臨海実験センターの採集個体から、下田近海には複数グループが生息していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の1年目で平板動物の繁殖時期が判明できたのは想定していた以上の結果である。これまで実験室飼育系統での卵や卵割期の報告はあるもの、平板動物の野生集団の繁殖時期の報告はこれまでなく、世界初である。また、少数ながら卵や卵割胚の固定もできた。この結果も平板動物の野生集団からは初めての報告である。今後はこれら固定サンプルの解析を進める予定である。 本研究では、平板動物に存在していることが判明している、生殖に関連している遺伝子の年間を通した発現量の相対的な増減を定量PCRや抗体染色法を用いて調べる計画である。それぞれに関して、予備的な結果は得られているものの、安定した結果が得られていない。 繁殖期の判明、卵・胚の固定サンプルの作成は、研究1年目としては想定していた以上の結果が得られたが、遺伝子発現の実験に関しては、もっと結果が得られることが望ましかった。この2点を総合的に考慮し、ほぼ想定通りの達成度と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後も定期的な採集を継続することで、繁殖時期の再確認を行う。そして、繁殖時期にはより多くの成体を採集することで、大量の胚や卵を獲得する予定である。また、平板動物の有性生殖行動の観察にも挑戦したい。その際は単に観察を行うのではなく、積極的に実験発生学的な手法も用いる。 平板動物の生殖関連遺伝子の単離・発現解析や抗体染色法の結果が安定しない理由の一つとして、下田臨海実験センター近海に複数グループが生息していることが考えられる。1年目の分子系統解析の結果、下田にいるグループは平板動物内でもかなりかけ離れたグループであることが判明している。今後は下田で採集した1匹由来の実験室飼育系統を用いることで、生殖関連遺伝子の単離・発現解析や抗体染色法で安定した結果が得られることが期待される。 平板動物は無性生殖も活発に行うため、下田産同士では遺伝的に近縁過ぎて有性生殖を頻繁に行わない可能性も考えられる。日本国内では過去に沖縄や和歌山県からも報告があり、私自身も沖縄、和歌山から平板動物の採集に成功している。また、千葉、三重、石川も初めて平板動物を発見することに成功している。今後は現地に赴き生体を採集し持ち帰ってくることで下田集団との交配を試行したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
卵や卵割期の胚が獲得可能なことが判明したので、これらのサンプル観察用の顕微鏡セットの購入を検討している。また、採集や飼育用の設備、消耗品の多くは1年目で揃ったので、次年度は遺伝子の単離や発現解析、および抗体染色法に関連した支出の割合が多くなることが想定される。そして、1年目に得られた結果を学会発表する際の旅費も予定されている。
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