研究課題
陸上植物はその生活環の中で単相 (n)と複相 (2n)の両方に異なる形態の多細胞体制を構築する異型世代交代を行う。申請者はヒメツリガネゴケKNOX2遺伝子の解析から、この遺伝子が陸上植物の世代交代のうち、複相から単相への移行を負に制御する転写因子であることを発見した。これは初めての世代交代を制御する転写因子の発見であり、この標的遺伝子を単離し、その機能解析を行うことで、世代交代を制御する分子機構の解明につながると期待される。KNOX2遺伝子は複相の初期胚で機能するが、その標的遺伝子の単離のため、野生株とKNOX2遺伝子欠損株の初期胚からcDNAライブラーを作成し、次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析するトランスクリプトーム解析を行い、その結果を比較することで、KNOX2遺伝子破壊株で有為に発現量の変化している遺伝子を探索することとした。申請者は野生株とKNOX2遺伝子機能欠損株の初期胚のサンプリングを終了し、微小サンプルからcDNAライブラリーを作成する準備を整えた。また、KNOX2遺伝子の属するKNOX遺伝子族はホメオドメインを持つ転写因子をコードしているが、緑藻と被子植物においてKNOX転写因子が核へと移行するのに、同じくホメオドメインを持つ転写因子であるBELLとヘテロダイマーを形成することが必要であると報告されている。申請者はBELLとの相互作用により、KNOX2タンパクが核へ移行することが世代交代制御のトリガーとなると仮説を立てており、KNOX2遺伝子だけでなく、BELL遺伝子の解析も本研究の課題とした。ヒメツリガネゴケゲノムには4個のBELL遺伝子がコードされており、そのうちの3個が複相で発現することを確かめた。現在、これらのBELL遺伝子についても詳細な発現解析と遺伝子機能欠損株の作出による解析を進めている。
3: やや遅れている
平成25年度において父の介護休業を取得したため、その間、研究を進めることができなかった。
申請者の所属する東京大学大学院理学系研究科においてイルミナ社のHiseq1500が導入された。これを用いてcDNAライブラリーのシークエンス解析を行う予定である。ヒメツリガネゴケの初期胚を用いたトランスクリプトーム解析のため、微小組織からcDNAライブラリーの作成が可能なquartz seq法によりライブラリー作成を行う予定である。また、KNOX2とダイマーを形成するBELL遺伝子の解析も進めており、BELLとCFP(青色蛍光タンパク)の融合タンパクを内生のBELLプロモーター下で発現する形質転換体 (BELL-CFP株)、およびBELL遺伝子機能欠損株を作出予定である。作出後、既存のKNOX2とYFP (黄色蛍光タンパク) 融合タンパクをKNOX2遺伝子の内生プロモーター下で発現する形質転換体 (KNOX2-YFP株)とのかけあわせ実験を行い、BELL-CFP x KNOX2-YFP株、KNOX2-YFP x BELL遺伝子破壊株を得る。BELL-CFP x KNOX2-YFP株を用いてKNOX2タンパクとBELLタンパクの細胞レベルでの相互作用を調べる。また、KNOX2-YFP x BELL遺伝子破壊株を調べることで、KNOX2が世代交代を制御する転写因子としての働く際の核移行がBELLに依存しているかを調べる予定である。
平成25年度に介護休業を取得したため、研究が予定通りに進行しなかった。次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析のための試薬の購入、及び形質転換体の観察のための試薬購入に充てる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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