雑種形成は、雑種を介して親種の間で遺伝子交流を生じさせ、植物の適応進化をもたらす重要な要因のひとつと考えられている。なかでも雑種由来の系統が種として進化する「交雑種分化」は、種分化をもたらす要因のひとつとして近年注目されている。本研究では、雑種を頻繁に形成するヤナギ属植物の分子系統を行った。特に、ネコヤナギとエゾヤナギの中間的な形質を持つ本州北部固有の絶滅危惧種ユビソヤナギ(Salix hukaoana)を選び、ユビソヤナギの雑種起源仮説の検証と種分化メカニズムの解明を試みることを目的としている。 本年度は、Populus 属のEST から設計された多数のプライマを用い、ヤナギ属植物で系統解析を行い、得られた多数の系統樹を統合して網状系統樹(Split network)を構築した。 エゾヤナギ・ネコヤナギ・ユビソヤナギの3種は互いに近縁であるが、3種の系統的独自性は高かった。その結果、ユビソヤナギがエゾヤナギとネコヤナギとの二倍体雑種起源であるという仮説は否定された。一方、少数の遺伝子座では遺伝子型を種間で共有し、3種の種分化後に浸透性交雑を生じた可能性も示唆された。一方、キツネヤナギ・バッコヤナギ・オノエヤナギなどの真正ヤナギ亜属に含まれるヤナギは、種としての系統的類似性を保持しているものの、複雑なネットワークを形成し、種分化後の頻繁な種間交雑によって網状進化を遂げている可能性が示唆された。 今後、次世代シーケンサー等を用いたゲノム解析により、ヤナギ類の進化史や網状進化のパターンを解明できると期待される。
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