研究課題/領域番号 |
24770082
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
佐藤 崇 独立行政法人国立科学博物館, 標本資料センター, 特定非常勤研究員 (60436516)
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キーワード | ミトコンドリアゲノム / 系統解析 / 遺伝子配置 / カレイ目 |
研究概要 |
2013年度は,カレイ目魚類の包括的系統解析の第 2 段階として,カレイ上科(スコプタルムス科,カレイ科,ヒラメ科,ダルマガレイ科)に焦点を当て,それらの標本採集からミトコンドリア (mt) ゲノム全長塩基配列データの収集,そして予備的な分子系統解析を進めた. 標本採集は,沖縄,静岡県駿河湾沖,台湾南部(高雄,東港)の 3 カ所で重点的に行った.その他にも国内外の大学や研究機関に試料収集を依頼し,これまでにカレイ科は全 23 属,その他の科についても科内の 8 割以上の属に関する解析用試料を入手することができた. Mt ゲノムデータは,30 種の全塩基配列を新たに決定した.昨年度のデータを合わせると,60 種程のデータが新たに解析に加わることとなる.カレイ目の別上科と外群も含めた 70 種ほどの予備系統解析を行ったところ,ダルマガレイ科内では,これまでの形態データをもちいた解析では示されたことのない,新たな系統関係が多数見いだされた.また,ヒラメ科は大きな 2 つのグループに分かれる側系統群であり,それぞれカレイ科,ダルマガレイ科と姉妹群を形成することが強く支持された.現在は,ダルマガレイ科の系統解析結果と,昨年までの研究で明らかになった,本科内で生じている複数の遺伝子配置変動についての論文を作成中である. 次年度は,カレイ目内の 3 上科中最大のウシノシタ上科(ササウシノシタ科,ウシノシタ科,カワラガレイ科,ベロガレイ科など)に関するデータ収集を早い段階に進め,本目全体の網羅的系統解析を行う予定である.その結果から,カレイ目のさまざまな形質に関する進化パターンの解明が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は 3 年間の計画で進めており,2013 年度は,ミトコンドリアゲノムに大規模な遺伝子配置変動を持つことが判明したダルマガレイ科魚類を重点的に扱う予定であった.しかし,初年度の研究が計画よりも早く進んだため,他の科のデータ収集や解析を進めることが可能となった. 解析用試料の収集は,現在までのところ,国内外の大学・博物館等の研究者から多くの協力が得られ,また複数回に及ぶ自らの採集(南西諸島・駿河湾・台湾)の成果もあがり,1 科を除く全てで追加目標種数を当初の予定よりも早く達成することができた.より精密な解析結果を得るために,2014年度前半は解析用試料の収集を継続する予定である. 本課題のメインターゲットの1つであるダルマガレイ科については,新規に 12 属 12 種のミトコンドリアゲノム全長配列データを決定する見込みであったが,目標を大きく上回る 16 属 35 種の新規データを決定することができた.さらに,本科の属するカレイ上科(スコプタルムス科,カレイ科,ヒラメ科)のデータと外群のデータに関して,約 30 種のデータを追加した.これらのデータをもちいて,ダルマガレイ科内の分子系統解析および遺伝子配置解析,カレイ上科における分子系統解析を実施した.その結果,これまでに発表されていない系統関係や分類体系に関する新しい知見が多く得られた.これらの成果は,第9回インド・太平洋魚類国際会議 (The 9th Indo-Pacific Fish Conference) において発表し,現在は論文投稿準備中である. 以上のことから,本研究課題の現在までの達成度は,当初の計画通りに進んでいると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
3 年計画の最終年度にあたる今年度前半は,カレイ目内でも特に種数が多いウシノシタ上科(ササウシノシタ科・ウシノシタ科・ベロガレイ科など)の解析に着手する予定である.そのための不足分試料の採集を早期に終了させるべく重点的に行う.採集候補地としては,琉球諸島を予定している.国内外の研究機関への試料収集依頼は継続して行っていく.採集した試料からのミトコンドリアゲノム全長配列決定を精力的にすすめ,年度後半までには複数の科内予備的解析を行うことを目標とする.ダルマガレイ科に関しては,本科と外群に関する系統解析,および遺伝子配置の比較解析結果をまとめた論文を投稿する. 以上のデータを加え,補強された全データセットをもちいて,カレイ目魚類の包括的系統解析を行う.また,膨大な塩基配列情報に基づき,分岐年代のベイズ推定を行う予定である.さらに特異な遺伝子配置の出現頻度や特徴を明らかにするべく,遺伝子配置の比較解析をすすめる.この遺伝子配置情報を,前述の解析で得られた系統樹にマッピングすることで,本目魚類の遺伝子配置の進化パターンを考察する.これらで得られた情報を統合することにより,カレイ目魚類の進化史を総合的に考察する. 以上全ての結果については,年度内投稿を目標に速やかに論文として公表する作業を進めるとともに,学会等での成果発表を積極的に行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度に支給された予算は,ほぼ予定通りに消耗品の購入費用や採集旅費として使用された.実験用試薬が,業者のキャンペーン価格適用などで通常より安価で購入できたため,年度末の時点で 9,448円の残金が発生した.この金額は,分子実験用試薬購入のためには不足であったため,次年度への繰り越しとした. 3年計画の最後の年となる 2014年度は,科内の多様度が非常に高いために,より緻密な解析結果を得るためには試料が不足していると考えられるウシノシタ上科の試料採集のため,これら魚種の採集実績のある奄美大島や沖縄等へ赴く予定である.このサンプリングに伴う費用と標本の送付に 20万円を使用予定である. 本課題のコアとなるカレイ目魚類ミトコンドリアゲノム全塩基配列決定のために,試薬費および実験に伴うプラスチック・ガラス器具類購入費として合計で 10万円を使用する計画である.また,本研究の成果を広く社会に発信するため,学会発表等に必要な費用として 10万円(2回の年会参加を想定),論文発表に伴う英文校閲やカラー原稿・別刷り等の印刷費用として 10 万円(2本の論文を想定)を使用する予定である.以上,2014年度は合計 50万円の予算を使用し,本研究課題を進めていく計画である.
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