研究課題/領域番号 |
24770087
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾瀬 農之 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (80380525)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | X線結晶構造解析 / 分子間相互作用 / アダプター蛋白質 |
研究概要 |
本研究の行う上で相互作用解析・複合体結晶構造解析などに必要な目的分子群を、高度に精製しなければならない。熱力学・構造学的研究のためには数ミリグラム単位での蛋白質が必要であり、多ドメインを保持する本研究の対象蛋白質群は、蛋白質調製を行う過程が一つ目の大きな関門となる。組み換えBrkの発現系として昆虫細胞Sf9を用いた。SDS-PAGE上でシングルバンドとなるまで精製を行った。結晶化スクリーニングの試行が可能であるような収量(1L培養あたりのタンパク質収量1-2 mg)で得ることに成功し、約1200条件で結晶化試行した。得られた結晶に関しては、次回の放射光ビームタイムでX線回折実験を行う。 組み換えSTAP-2については精製時の収量が少なく(同50-100μg程度)、新たな発現コンストラクトを作成し高収率での精製を目指している。また、スライシングを担っているファクターPSFおよびp54複合体については二段階の精製を行うことにより、SDS-PAGE上で高純度で精製することに成功した。PSFとBrk間の相互作用については、BrkによるPSFチロシンリン酸化の解析および表面プラズモン共鳴を用いた結合実験を現在行っている。Brkはリン酸化状態と非リン酸化状態でのコンフォメーションが異なることが予測されるため、フォスファターゼにより脱リン酸化処理を行い、コンフォメーション変化をX線溶液小角散乱法で確認するなどの実験を構築中である。また、リン酸化に応じた相互作用解析実験を表面プラズモン共鳴や等温滴定 型熱量計にておこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
STAP-2の組換え体を精製する方法はこれまで報告されていなかったにもかかわらず、我々は精製することに成功した。まず、HEK293T細胞で大量に蛋白質を得ることを目指した。これまでSTAP-2結合分子の探索は主に免疫沈降・プルダウンアッセイなどで行われてきており、細胞生物学実験を行うための発現系は存在した(CMVプロモーター使用)。しかし、その検出は特異的タグに対する抗体を使用するものであり、そのままでは構造生物学的研究に必要な量を供給できないことが判明した。AGプロモータ(chicken β-actinと rabbit β-globin を組み合わせたもの)を利用した発現ベクターを使用しても同程度の発現量であった。そこで、バキュロウイルス遺伝子発現ベクターを使用して昆虫細胞Sf9での大量発現を試みたところ、1L培養液当たり0.1mg程度ではあるが、発現・精製することに成功した。これは、GSTタグとHisタグを共に融合させたものであり、種々の結合実験を行う上で最適である。また、タグは特異的プロテアーゼ(3Cプロテアーゼ)を用いて、結晶化などの目的で必要に応じて除去することが出来る。良質の組換えSTAP-2が高純度に調製できたことは、その後の生化学的・構造生物的な実験を進める上で非常に画期的な進歩である。また、BrkやPSF複合体が調製できたことは、研究の進行を考える上で非常に大きく、予定通りの進行状況と考えて良い。
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今後の研究の推進方策 |
多くの結合パートナーを持つSTAP-2のように複雑な相互作用を取り扱う系では,結合の順序による構造変化の可能性にも充分注意を払う必要がある.相互作用は表面プラズモン共鳴(SPR)法や等温滴定型熱量計(ITC),示差走査型熱量計(DSC),分析超遠心機(AUC)法を使用し,精密に相互作用パラメータを評価する.変異体作製により,各相互作用残基の役割を精査する.これらの機器は身近にあり申請者が常に使用しているものであるため,効率の良い実験ができる.蛋白質間相互作用の必要最小領域を絞り込み,実際に細胞中で改変領域が評価される必要がある.STAP-2分子発見者である松田正教授が北大薬学研究院で細胞及び個体レベルの研究を行っており,我々の実験結果をタイムリーでフィードバックしてもらえるため,vivoでの挙動を再度,研究設計に反映することができる.具体的には,変異体導入によるシグナル入力の変化や細胞内蛋白質の局在観察である. 我々の経験上,高分子同士の複合体結晶を得るためには,組換え発現コンストラクトの最適化が肝要となるケースが多い.相互作用ドメインの複合体結晶を得るには,適切なドメインのみにするために,コンストラクトの刈り込みも必要であろう.麻本プロジェクトではマルチドメインからなる蛋白質群の複合体が構造解析対象となり,低分解能のX線回折データしか得られない可能性もある.その場合においても,申請者は多くの結晶構造解析経験があるため,効果的な問題解決ができる.もしも複合体結晶が得られなかった場合を想定し,X線小角散乱法を平行活用する.これは溶液中の分子の概略を計算することができる有用な方法であり,最近は構造生物学者の使用例も増えてきている.
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費に関しては複合体も含めて,蛋白質の結晶化はランダムマトリックス法以外にも,体系的にスクリーニングする方法もおこなう.その際,サンプルを各条件と混和した際の挙動を丹念に観察・記録する必要があるため,初期の段階で高倍率の双眼実体顕微鏡を1台購入する(110万円程度). 消耗品等 ・ 哺乳類細胞や昆虫細胞培養のための培地代100千円程度必要である.・ 等温滴定型熱量測定用消耗品:専用サンプルバイアル瓶及びシリンジ代として200千円申請する.・ 表面プラズモン共鳴用消耗品:L1センサーチップ,HPAセンサーチップ,専用緩衝液,サンプルバイアルの購入費として200千円を申請する.・ シークエンサー消耗品・精製カラム・酵素・試薬,使い捨て容器として,計160千円計上した. 旅費として放射光(つくばPhoton Factory, 西播磨SPring8)にてX線結晶回折測定を行うため一回当たり100千円,計2回の200千円算出した.また,学会参加費用(二回)のため,計200千円の旅費を申請する.
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