研究課題/領域番号 |
24770088
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
松井 崇 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 助教 (30463582)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 真性細菌 / 細胞分裂 / タンパク質複合体 / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
細菌の細胞分裂に関与するFtsA、ZipAは自己重合し原線維を形成したFtsZと複合体を形成し、原線維を細胞膜へ固定化させる。しかし、原線維が細胞膜上へ固定化される分子メカニズムは不明である。本研究は細胞分裂タンパク質群複合体(Divisome)形成機構を解明するため、FtsZとFtsA、ZipAとの複合体立体構造決定を目指し研究を進めている。平成24年度は、FtsA(黄色ブドウ球菌、緑膿菌、枯草菌、大腸菌由来)とZipA(緑膿菌、大腸菌由来)の大量調製法の確立とX線結晶構造解析を目指し研究を進めた。 上記4菌種のFtsAの大量調製法のうち、黄色ブドウ球菌FtsAと枯草菌FtsAの大量調製法の確立に成功した。黄色ブドウ球菌ならびに枯草菌FtsAは全長体とC末端部分を欠損させた遺伝子をN末端Hisタグ配列の下流に挿入し、BL21(DE3)株に導入して発現した。その後、多段階のクロマトグラフィーによって、黄色ブドウ球菌FtsA、枯草菌FtsAの試料調製に成功した。また、黄色ブドウ球菌FtsAの1つのC末端欠損体は初期結晶が得られ、現在、高分解能結晶条件を検討中である。 しかし、緑膿菌、大腸菌ZipAの大量調製法の確立については、FtsA同様な調製法を検討したものの、可溶性画分からは精製できず、他の融合蛋白質との発現系を検討中である。 原線維は細胞分裂関連タンパク質に対する相互作用の足場である。また、原線維はFtsZの構造変化等によって形状が変化し、細胞分裂が進行する。そのため、FtsZ構造変化はFtsAやZipAとの相互作用に重要と考えられる。今回、FtsZの機能状態を制御可能な置換体が調製できた。本置換体は、既知構造と異なる構造を持ち、FtsZの原線維形成に必要な重合活性を持たないため、構造―機能相関について新たな知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度までの達成目標として、4菌種のFtsA(黄色ブドウ球菌、緑膿菌、枯草菌、大腸菌)と2菌種のZipA(緑膿菌、大腸菌)の計6種類の試料のうち、少なくとも1つの大量調製方法を確立することを目標とした。平成24年度までに4菌種のFtsAと2菌種のZipAの発現用コンストラクトを設計した。全長体のタンパク質の発現・精製条件の検討以外に、部分欠損体の検討も行った。各菌種のタンパク質毎に複数の部分欠損体を設計し、発現・精製条件を検討した。FtsAはその菌株の多さから発現系や精製条件の検討に苦労したものの、黄色ブドウ球菌FtsAと枯草菌FtsAは、それぞれ全長体および1種類のC末端欠損体の大量調製法を確立でき、数値目標は達成された。 しかし、もう1つの複合体形成分子であるZipAは、①FtsAの大量調製法の確立に時間がかかったこと、②初期に設計したN末端Hisタグ融合蛋白質では不溶性または発現が見られず、未だ大量調製法を確立できていない。 X線結晶構造解析は、平成24年度は上記の計6種類の試料のうち、少なくとも1つの結晶構造解析を実施する目標であった。平成24年度中に作成できた黄色ブドウ球菌FtsAのC末端欠損体の結晶は、放射光施設において分解能2オングストロームを超える良質な結晶であった。しかし、本結晶は分子置換法を用いても構造決定できず、FtsA構造はモデル構造とは異なる構造をとっている可能性が示唆された。そこで、Se-Met標識試料を調製しほぼ同一の結晶化条件で3オングストロームの単結晶が得られたものの、Se-SAD法でも良質な異常分散効果を観測できず構造決定には至っていない。現在、より高分解能な結晶が得られるよう結晶化条件の最適化を実施している。 このように、精製の困難さや構造変化による解析の遅れなど、当初の研究計画と比較し、やや遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年6月に異動し、研究室立ち上げのため稼働率の低かった精製機器や分析機器も現在では順調に稼働している。したがって、目的試料の調製や結晶化の遅れは挽回できるものと考えている。 FtsAの精製は予定よりも順調に進んでいるものの、調製できている試料はすべてグラム陽性菌のみである。グラム陰性菌の緑膿菌、大腸菌のFtsAならびにZipAの精製法は確立できておらず、Hisタグ融合蛋白質を複数種の大腸菌株へ形質転換するだけではなく、他の融合蛋白質を利用した発現系も構築中、または構築を検討している。これらタンパク質が不溶性でのみ発現確認される場合には、尿素やグアニジン塩酸塩を用いた巻き戻し法による調製も検討する。 既に精製法が確立できた黄色ブドウ球菌ならびに枯草菌FtsAは一部のFtsAにのみ確認されているATPase活性を有するか活性測定を実施する。また、FtsZとFtsAとの相互作用解析、複合体立体構造解析に向けた複合体結晶化も実施していく。 今回、思いがけずFtsAまたはZipAとの複合体相互作用、複合体構造解析に重要なタンパク質であるFtsZの構造状態を制御可能な置換体が調製できた。本置換体はFtsZの重合化機構が機能を失い、単量体FtsZのみが存在できる。本置換体の構造、機能解析から、重合機構と構造変化の相関がはじめて明らかとなり、現在、論文を執筆中である。この単量体化FtsZ置換体を用いた複合体構造解析や相互作用解析、FtsZのさらなる構造機能相関も解析することで、FtsAやZipAがFtsZ分子を認識して相互作用するか、または、FtsZからなる原線維を認識することで相互作用を示すか、Divisome形成機構がより詳細に解明できると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年6月に異動したため、現在までの達成度にやや遅れが生じ、交付決定額より次年度使用額が生じた。 次年度の研究費は、主としてFtsZ、FtsA、ZipAの各タンパク質の発現系構築に必要な大腸菌株、プラスミド、オリゴDNA合成、制限酵素やDNA精製用試薬、プラスチック器具と、タンパク質の精製に必要な試薬、カラム、プラスチックならびにガラス器具、およびタンパク質結晶化に必要な試薬、プラスチック器具などの消耗品費として使用予定である。 また、学会発表ならびにX線回折実験のために放射光施設へ複数回出張する予定であり、出張旅費としても使用する予定である。
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