研究課題/領域番号 |
24770088
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
松井 崇 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 助教 (30463582)
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キーワード | X線結晶構造解析 / 真正細菌 / 細胞分裂 |
研究概要 |
細菌の細胞分裂に関与するFtsA、ZipAは自己重合し原線維を形成したFtsZと複合体を形成し、原線維を細胞膜へ固定化させる。しかし、原線維が細胞膜上へ固定化される分子メカニズムは不明である。本研究は細胞分裂蛋白質群複合体形成機構を解明するため、FtsZとFtsA、ZipAとの複合体立体構造決定を目指し研究を進めている。平成25年度はFtsA(黄色ブドウ球菌由来)のX線結晶構造を決定した。また、FtsAはActinファミリーに属しているため、ATPase活性と構造の機能相関の解明に向けた研究も進めた。 平成24年度より黄色ブドウ球菌FtsAと枯草菌FtsAについて、結晶化スクリーニングキットを用いた初期結晶作製に挑戦し、本年度に、黄色ブドウ球菌FtsAの高分解能結晶の作成に成功した。高エネルギー加速器研究機構の放射光を利用しX線回折実験を実施し、2.0オングストローム分解能の黄色ブドウ球菌FtsAの立体構造決定に成功した。また、本結晶には、精製・結晶化過程には加えていないATPおよびMgイオンがATPase活性部位に結合し、FtsAがATPase活性を持つ可能性が示唆された。 そこで、FtsAのATPase活性について実験したところ、黄色ブドウ球菌FtsAはATPase活性が見られなかったが、枯草菌FtsAのATPaseは顕著に確認され、現在、枯草菌FtsAの結晶構造解析に向け、結晶化を継続中である。 原線維は細胞分裂関連蛋白質に対する相互作用の足場となる。原線維はFtsZの構造変化によって形状が変化する。そのため、FtsZ構造変化はFtsAやZipAとの相互作用に重要と考えられる。今回、非重合型FtsZ置換体の結晶構造決定にも成功し、重合とGTPaseに必要なT7 loopの相互作用変化がFtsZの構造変化を引き起こし、原線維の形状や重合形成を制御することを報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度までの達成目標は、少なくとも2菌株のFtsAまたはZipAの立体構造決定と、残りの試料についての大量調製法および結晶化を進め、菌株間の構造および機能解析を進める事であった。以下に3項目に分け、各研究に対する達成度を自己評価した。 1、立体構造解析は前年度からの遅れにより、今年度もその影響が認められるが、黄色ブドウ球菌FtsAは高分解能構造の決定に成功した。計画の遅れを取り戻すため、同じグラム陽性菌である枯草菌FtsAに注力し結晶化を進め、結晶を得るためにFtsA全長体だけではなく、欠損している長さの異なる複数のC末端欠損体の調製と結晶化も実施したが、試料数の増加に伴い試料調製に時間を要し、計画の遅れを取り戻すまでには至っていない。 2、機能解析のうちFtsAのATPase活性は、概ね予定通り達成している。既に大量調製法が確立していることで、大腸菌、枯草菌、黄色ブドウ球菌FtsAについてATPase活性実験を実施し、遊離リン酸の検出法を用いてATPase活性を確認し、枯草菌FtsAにのみATPaseが見られることを確認した。 3、FtsZとFtsA、およびZipAとの相互作用解析と相互作用によるFtsZのGTPase、FtsAのATPase等の活性相関については、当初の研究計画よりやや遅れている。その理由として、当初の予定にはないFtsZの非重合変異体とその立体構造を得ることに成功し、本変異体を用いることでFtsZの重合とFtsA、ZipAとの結合や機能発現との相関が解明出来ると考え、測定試料の組合せを増やした事が要因である。現在、FtsZ野生型および変異体とFtsA、ZipAとの相互作用解析を等温滴定熱量測定を用いて実施中である。さらに、FtsZ野生型および変異体にFtsAを加え、GTPaseおよびATPase活性も測定中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までの実施状況を踏まえ、最終年度である平成26年度は以下の通り研究を推進する方策を取る予定である。 1、黄色ブドウ球菌FtsA以外の菌株およびZipAについて結晶化、構造解析を進める。特に唯一ATPase活性が確認できている枯草菌について結晶化、構造解析を進め、FtsAのATPase活性と立体構造の相関を解明する。これまで多数の欠損体を調製していることから、平成26年度は結晶化方法について、非特異的凝集を抑制可能なNDSB等の試薬を結晶化ドロップに加える事で、結晶化を試みる。 2、ATPase活性部位で高いアミノ酸配列相同性を持つFtsAがなぜ一部の菌株のみATPase活性を持つかは非常に疑問である。そこで、31P NMRを用いてATPaseを直接観測する予定である。 3、FtsZ-FtsA、FtsZ-ZipAの二者複合体、および、FtsZ-FtsA-ZipA三者複合体の立体構造解析および、機能解析を進める。立体構造解析に向けては、二者または三者を混合し、結晶化を実施しているが、今後は、複合体結晶化のために、ATPアナログやGTPアナログ存在下でも結晶化スクリーニングを実施する。また、混合後ゲルろ過に供し複合体となった成分のみを回収し結晶化することも試みる。さらに複合体における機能解析について、平成25年度に発表した非重合型FtsZを用いることで、FtsAやZipAはFtsZ重合体とのみ結合するのか明確にする。また、FtsZ野生型および非重合型FtsZを用いて、FtsZ-FtsAやFtsZ-ZipA複合体化でのGTPaseまたはATPaseの抑制・活性化について調べ、相互作用様式や相互作用と個々の蛋白質機能の相関を解析することで、Divisome形成機構やDivisome形成にともなる機能発現機構がより詳細に解明できると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は4339円と非常に少なく、概ね計画通り直接経費を使用することが出来た。しかしながら、年度末に急遽複数の出張が重なってしまい、2月、3月度で思うように研究が進まず、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は平成26年度に、主に試薬等の消耗品として使用予定である。
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