ESCRT-IIIタンパク質複合体は、細胞分裂の最後のステップである娘細胞間の膜の切断、エンドソーム内腔小胞形成時の膜切断、レトロウイルス等が細胞から出芽する際のエンベロープ膜切断等に機能している。これらでは全て、ESCRT-IIIタンパク質複合体から形成される線維によって膜が切断されていると考えられ、その線維形成の起点、及び線維そのものについて、構造生物学的な観点から研究を行い、その詳細を明らかにすることで、その切断メカニズムを説明することを目的としている。これまでに、酵母および古細菌のESCRT-III遺伝子を計11種類クローニングして、様々なタグを用いて精製するためにベクターに組み込んだ。その後、いくつかの大腸菌を用いてタンパク質の発現を行い、全てのESCRT-IIIタンパク質について精製を行った。その中でいくつかのタンパク質は、高純度で精製することに成功し、結晶化を行ったが最終的に構造決定可能な結晶は得られなかった。また、タンパク質の長さの最適化を行うことや、変異体を作成することで、良好な結晶を得ようと試みたが、それらに関しても構造決定可能な結晶は得られなかった。古細菌には、ESCRT-IIIタンパク質と相互作用するCdvAが存在している。本研究では、このCdvAの発現、精製結晶化を行い、高分解能の結晶構造を得ることに成功した。さらに、電子顕微鏡を用いた解析から、このCdvAがESCRT-IIIタンパク質と同様の線維状構造をとることを明らかにし、その原子レベルでの詳細な構造を得ることに成功し、その線維形成メカニズムについて明らかにすることに成功した。
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