研究課題/領域番号 |
24770097
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
東浦 彰史 大阪大学, たんぱく質研究所, 特任助教 (90598129)
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キーワード | X線結晶構造解析 |
研究概要 |
分子量が10億にも及ぶクロレラウイルスのX線回折を生じるほどに質のよい結晶の作製を目指した大量調製法を前年度に確立し、本年度も引き続きクロレラウイルスを恒常的に大量調製することに成功している。さらに、クロレラウイルスの単離、精製法の改良により、より純度の高い試料調製が可能となった。より純度の高いウイルス試料で結晶化スクリーニングを再度行ったが、X線回折を生じるほどの単結晶を得るには至っていない。 前年度の結晶化スクリーニングの結果得られた微結晶を用い、X線自由電子レーザー施設SACLAでのXFEL照射実験を行い、多数のクロレラウイルスからなる散乱を示唆するデータの観測に成功したが、結晶の規則正しい繰り返し周期からの回折を得ることはできなかった。この結果より、より長周期でウイルスが配向したより大型の結晶が必要であることを確認することができた。 位相差クライオ電子顕微鏡を用いたクロレラウイルスの観察を行い、前年度クライオ電子顕微鏡による観察より明らかとなったウイルス粒子表面に存在するファイバー状構造体のより詳細な観察を行うことに成功した。 クロレラウイルスの結晶を用いたX線回折実験には放射光を用いることが必須であり、強力な放射光による結晶への放射線損傷を避けるための結晶の凍結操作が必要となると予想される。結晶をその配向を壊すことなく凍結するためには、不凍液への置換が必須であるがその際の結晶の環境の変化が問題となる。クロレラウイルスの様な巨大なウイルス粒子から得られる結晶は結晶化母液の環境の変化に脆弱である可能性が考えられる。そこで、結晶を結晶化母液からの環境変化を少なく凍結するための方法として高圧凍結法をモデル蛋白質に対して適用し、高圧凍結で対象分子に人為的な変化が加わらないということを超高分解能で明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画では当該年度に結晶が得られており、X線回折実験を始めている予定であったが、X線回折実験に供することのできる結晶は得られていない。試料の調製状況は概ね良好であるが、結晶が得られていない原因としてはクロレラウイルスの表面に散見されるファイバー状構造体が結晶化を妨げていることが大きいと考えている。 研究計画段階ではクロレラウイルスのカプシド蛋白質の糖鎖構造が結晶化に悪影響を及ぼすことを考慮していた。しかし、その後の高度に純化されたクロレラウイルスの種々の電子顕微鏡を用いた観察により、クロレラウイルス表面のファイバー状構造体の存在が明らかとなり、当初の計画で考慮していたカプシド蛋白質の糖鎖除去の検討から、ファイバー状構造体の同定、除去へと計画が変更になり研究の達成度が遅れている原因となった。
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今後の研究の推進方策 |
結晶化を妨げる要因として、ウイルス表面に観察されたファイバー状の構造体の存在が考えられるため、このファイバー状の構造体除去法の検討を行う。塩の添加やpHの変化などによる化学的手法、径の細い管へのウイルス試料の通過やフィルターによる選別などによる物理的手法、酵素を用いた生化学的手法などを試み、動的光散乱法やクライオ電子顕微鏡により評価する。このファイバー状構造体が除去できた場合は結晶化スクリーニングを行う、迅速なスクリーニングのために、結晶化ロボットを積極的に利用する。また、このファイバー状構造体の構造を現在得られている電子顕微鏡データから詳細に解析し、新たな知見を得ることに努める。 ファイバー状構造体の除去法の検討に並行して、前年度までに微結晶が得られている結晶化条件の最適化を引き続き行いより大型の結晶を得ることを目指す。 大型の結晶を得ることが出来次第、所属研究所で運営しているSPring-8の生体超分子構造解析ビームラインにおいてX線回折実験を随時行う。 ファイバー除去法の検討と結晶化条件の最適化にはウイルス試料が大量に必要であるため、ウイルス調製を恒常的に行う。そのために一時的にアルバイトを雇用し、更なる調製法の効率化と試料の高純度化を随時検討する。 さらに学会発表などを通し情報収集を行い、当該研究の推進に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
発表に相当する成果が得られなかったため、当初予定していた学会発表を見送った。また、X線回折実験に供する結晶が予定通り得られなかったため、放射光施設での実験を行うことができなかった。以上の理由により当初計画していた旅費を使用することができなかった。また、クロレラ培養とクロレラウイルスの純化方法の高効率化の結果、消耗品の使用量が当初研究予定よりも減少した。以上の理由により、次年度使用額が生じた。 クロレラ培養とクロレラウイルスの純化を効率化し、恒常的なサンプル調製の手段が整った。試料調製段階には検討事項は存在しないと考え、アルバイトの雇用によるクロレラウイルスの大量調製を行い、研究の効率化を目指す。
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