研究課題
細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアは、近年の研究から、抗ウイルス自然免疫と密接に関係していることが明らかになってきた。ミトコンドリアを介した細胞内でのウイルス免疫応答は、ミトコンドリア外膜上に局在するアダプタータンパク質(MAVS)を中心とした一連のシグナル伝達経路により引き起こされる。しかしながら、宿主細胞のウイルス感染に伴ったシグナルがどのようにMAVSに伝達され、またMAVSから下流へと情報が伝わるのか? 構造に基づく知見が不足している。本年度は、細胞内でミトコンドリアを介した抗ウイルス免疫機構の分子レベルでの作用機序を理解することを目的とした。我々はこれまでに、MAVSが生理的条件においてミトコンドリア外膜上で高分子複合体を形成して存在していることを明らかにしてきた(Yasukawa et al., 2009, Sci. Signal.)。そこで本研究では、この高分子複合体の正体を明らかにすることにより、細胞のウイルス感染に伴ったMAVSの活性化・不活性化機構の分子基盤解析を行った。分子生物学的手法により、MAVS cDNAにそれぞれルシフェラーゼ(Rluc)、またはYFPを融合させた組換え遺伝子を作製し、それら遺伝子をHEK293細胞にトランスフェクション、その後、生物発光共鳴エネルギー移動法(Bioluminescence resonance energy transfer:BRET)を利用した分光学的な実験により、生細胞内におけるMAVS複合体形成を調べた。その結果、MAVSは活性化状態において、分子間相互作用をしていることを明らかにし、化学量論的に三分子以上が集まることでその後のシグナル伝達過程を惹起することが示された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は、その当初目的であるミトコンドリアを介した抗ウイルス自然免疫の構造基盤に立脚した作用機序を明らかにすることが達成され、当初目的を大きく進展していることが示された。その理由として、上記研究成果を原著論文として発表することができ、またその周辺分野を網羅した総説の発表も行うことが出来た。さらに、本研究成果の紙面上発表以外にも、複数の招待講演による学会発表も行い、非常に好評であった。以上の理由により、その達成度は計画以上であると考える。
次年度においても、本年度同様に計画通りに実験を進めていく。
培養細胞を用いた実験を行う上で、遺伝子導入を行う際に、新たな試薬を用いて実験を進めていくことを予定しており、その試薬購入にかかる経費として計画した。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件)
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