研究課題
細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアは、近年の研究から、抗ウイルス自然免疫と密接に関係していることが明らかになってきた。ミトコンドリアを介した細胞内でのウイルス免疫応答は、ミトコンドリア外膜上に局在するアダプタータンパク(MAVS)を中心とした一連のシグナル伝達経路により引き起こされる。しかしながら、宿主細胞のウイルス感染に伴ったシグナルがどのようにMAVSに伝達され、またMAVSから下流へと情報が伝わるのか? 構造に基づく知見が不足している。本研究は、細胞内でミトコンドリアを介した抗ウイルス免疫機構の分子レベルでの作用機序を理解することを目的とした。昨年度私たちは、分子生物学的手法によりMAVS cDNAにそれぞれルシフェラーゼ(Rluc)、またはYFPを融合させた組換え遺伝子を作製し、それら遺伝子をHEK293細胞にトランスフェクション、その後、生物発光共鳴エネルギー移動法(Bioluminescence resonance energy transfer:BRET)を利用した分光学的な実験により、生細胞内におけるMAVS複合体形成の検出システムを開発した。その実験により、MAVSは活性化状態において、分子間相互作用をしていることを明らかにし、化学量論的に三分子以上が集まることでその後のシグナル伝達過程を惹起することを示している。本年度は、これまでに私たちを含めたグループにより報告されているMAVS阻害剤存在下におけるBRET測定を行った。その結果、ミトコンドリア外膜上で阻害を行うミトコンドリア融合因子、Mfn2はMAVS複合体を立体的に障害し、多量体化を阻止していることが示せた。さらに、C型肝炎ウイルス由来のプロテアーゼNS3/4Aは、MAVSをミトコンドリア外膜上から切断し、その結果、会合体を形成できなくしている機構も明らかにした。以上の実験により、これまで理解されてこなかったミトコンドリア膜上におけるシグナル伝達機構の一端を分子レベルで明らかにすることが出来た。
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